ウェンブリーを魅了したブラックダイヤモンド
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シャーデー(SADE)は1982年にロンドンで結成されたソウル,スムースジャズ,ソフィスティ・ポップを得意とする5人編成の「バンド」である。シャーデーについてはその曲に聴き馴染みがある人でも女性シンガーの名前か愛称と勘違いしている人が結構多いように感じるが、Vo.であるシャーデー・アデュ(Sade Adu)の名にちなんで名付けられたものではあるが、あくまで彼等は「バンド」なのだ。
デビュー当時のメンバーはアデュのほか、Drums のポール・アンソニー・クック(Paul Anthony Cooke),Gu. と Sax.のスチュアート・マシューマン(Stuart Mathewman),Keyboards のアンドリュー・ヘイル(Andrew Hale)そして、Bass. のポール・スペンサー・デナン(Paul Spencer Denman)だった。
旧英国統治時代のナイジェリアに生まれたアデュは、両親の離婚後にロンドンに移り住みそこでファッションデザインを学んだあと友人と服飾の会社を立ち上げモデルを兼任したりしていた。一方本職とは別にイギリスのバンドのバックシンガーで唄っていたところでSADEのメンバーと出会いバンドを結成することなる。デモやライブパフォーマンスなどの音楽活動を通じてエピックレコードとの契約を得ると 1984年にリリースした1stアルバム『Diamond Life』が大ヒット。このアルバムは全英アルバムチャートで2位、全米ビルボード200でも5位を記録するなど華々しいデビューを飾ることになった。
このアルバムにはソウル、ジャズ、ソフィスティ・ポップなど多くの洒脱な音楽要素が盛り込まれており、特にシングルカットされた ”Smooth Operator” をはじめとして、新たなクワイエットストームと”ネオソウル”への先駆けとも云われており、洗練されたポップスタイルをソウルミュージックと融合したスタイルでシャーデーは一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。
そしてそれは 1985年7月13日ロンドンのウェンブリースタジアムで開催されたあのライブエイドに出演機会を得ることにもなる。
ご存知のように、このイベントはボブ・ゲルドフとミッジ・ユーロの呼びかけでエチオピア飢餓災害支援のために企画されたチャリティコンサートで、史上最大級の衛星中継により世界中で生放送されて世界人口の約40%が視聴したと云われている。呼びかけに応じて出演した当時のトップアーティスト達の中にあってシャーデー・アドゥは、アフリカ生まれのアーティストとして唯一出演したメインシンガーということになった。
この時のステージパフォーマンスは本当に素晴らしく、決して派手なナンバーを披露している訳ではないのだが、お祭り騒ぎを楽しんでいた万5千人の観客もテレビの前の数え切れない全世界の視聴者も、彼等のサウンドに魅了されているのが伝わってくるような内容だった。
そうして1985年11月バンドは2枚目のスタジオアルバム『Promise』をリリース。その完成度はさらに素晴らしくイギリスとアメリカのアルバムチャートで1位を獲得し翌年のグラミー賞で最優秀新人賞を受賞することになる。なおアルバムのタイトル『Promise』は、アデュの父が癌と闘病した際「希望への約束(promise of hope)」が記された手紙に由来するものだという。
この2ndアルバムの制作は1stから引き続いてロビン・ミラー(Robin Millar)やマイク・ペラ(Mike Pela)らとバンドが共同プロデュースしたものとなっており、フランスのプロヴァンスに2週間ほど滞在して一部のセッションをこなした。

なおこの納屋の形をしたコンクリート造のスタジオミラヴァル(現在のMiraval Studios)には、SSL(Solid State Logic社)のコンソールSSL4000 Eシリーズが使われており、このアルバムのレコーディングにも使われたことで、ピンクフロイドや他にも多くのアーティストがこのスタジオで作品を制作したと同様に、このコンソールの名を高名なものにした要因のひとつとなっている。
さらに余談だがこのスタジオは何度か転売されたのち、近年になってブラッド・ピットと(離婚した)アンジェリーナ・ジョリーらが買収。改築再構築されて細心のテクノロジーを導入した新たなスタジオとして運用が再開されている。
※写真はSSL 4000E ブラウンノブ
(時代により低域のノブがブラックキャップのものもある)
このアルバムの大半はロンドンの Power Plant Studiosで残りのレコーディングを完成させたものだが、とにかくサウンドプロダクションが大変素晴らしいのも聴き所のひとつなので、是非できるだけ良音再生できる環境でボリュームを上げて、その甘美なサウンドに酔いしれてみて欲しい。
アルバムのオープニングを飾る M-1. ”Is It Criminal ?” はこのアルバムからのセカンドシングルカットで、ホーンセクションによる派手なイントロから一気にスムースジャズとメロウな歌声になだれ込むテンポがとても心地よいナンバーとなっている。
続く M-2. ”The Sweetest Taboo” はこのアルバムのリードシングルでアルバム最大のヒット曲となった。ビルボードHOT100で5位を記録したあとも13週連続でトップ40圏内に留まった。淡々と続くクローズドリムショットに、カッティングギターや電子ピアノ、ホーンセクションなど様々な音色が次々と登場してくる展開がとても印象的で面白いナンバーで、そのアレンジにも是非注目してほしい1曲。
MVではバンドがジャズラウンジでプレイする姿を見ることができる。
この作品を聴くと、愛や人生の機微を切々と唄いあげるアデュのヴォーカルの魅力だけでなく、心地よいメロディとサウンドに包まれる幸福感を与えてくれる。あらためてシャーデーがバンドだということを再認識できると思う。
Origin : | London, England, UK ![]() |
Released : | 1985. 11. 4 |
Label : | Epic Records |
Producer : | Robin Millar, Mike Pela, Ben Rogan, Sade |
Studio : | Power Plant (London), Miraval (France) |