ドラゴン退治を叶えた音楽プロデューサー
#0047
ドリーム・イーヴィル(DREAM EVIL)は、スウェーデンのイェーテボリで結成されたパワーメタル、スピードメタルを得意とするバンドで。北欧のメロディック・デスメタルバンド(ARCH ENEMY, AT THE GATES, DARK TRANQULITY, IN FLAMES 等)から厚い信頼を得ていたプロデューサー、フレドリック・ノルドストローム(Fredrik Nordström)が1999年に結成する。
ノルドストロームは常々自身のバンドをやってみたいと考えていたようだが、なかなか自分と同じような音楽的な方向性の理想を共有できるミュージシャンに出会えていなかったようだ。
しかし1999年の休暇先だったギリシャ島で若きギタリストの青年に出会い意気投合する。
その青年こそ、若き日のガス・G(Gus G)だった。
ガス・Gは、ギリシャのテッサロニキに生まれ、後に FIREWIND, Ozzy Osbourne band, Mystic Prophecy 等に加入する才能溢れるギタリストだ。ガス・Gという風変わりな名前は彼のステージネームで、 “コスタス “というよくあるギリシャ系アメリカ人の名前(本名のコンスタンティノスを略した呼び方)を英語訳したも
のが「ガス」でアメリカ在住時代につけられたニックネームが「G」だったことに由来するそうだ。
18歳でギリシャを離れてアメリカのバークリー音楽大学に進学したがわずか数週間で退学。アメリカの地で自らメタルシーンでの名を上げるため、1998年には親しいミュージシャン仲間たちと Firewind というプロジェクトを起ち上げデモ録音するなどプロ契約を得るための音楽活動を開始していた。
そんな2人が偶然にもギリシャの地で出会い、10歳以上年齢が離れていたにも関わらずミュージシャンとして大いに意気投合したのは不思議な縁を感じる。ほどなくしてガス・Gはイェーテボリ行きの飛行機に飛び乗りスウェーデンに渡り、早速ノルドストロームと曲作りに取りかかる。
この運命の出会いを理想のバンドのカタチにするためには、さらに才能豊かなミュージシャンを各パートに集めなければならない。そんな彼らが最初に白羽の矢を立てたのが、King Diamond, Mercyful Fate, Notre Dame などで活躍していたベテランドラマーのスノーウィー・ショウ(Snowy Shaw)だった。しかしこのギターもこなす頼もしいミュージシャンは最初彼らの誘いを断ったそうだが、幸いその後に考えを変え、ひとまずこの新バンドのアルバム制作には参加することになった。
ノルドストロームは過去に自分がプロデュースした Hammer Fall の曲にバックコーラスとして参加していたニクラス・イスフェルト(Niklas Isfeldt)に声をかける。当時イスフェルトはまだ大きなプロジェクトに参加した実績はなかったが、オーディションでの結果は大変良好で、新バンドのヴォーカリストの座を見事に射止めてみせたのだ。また彼はバンドの最後のピースなるベーシストとして友人のピーター・ストールフォース(Peter Stålfors)を紹介する。
こうしてノルドストロームを中心に集まったメンバーは、すぐに Century Media Records とサインを得て順調な滑り出しをみせることになる。
ただ当初問題になったのがそのバンド名で、ガスGとノルドストロームが書き進めていた曲のテーマは中世やファンタジーを強く意識したコンセプト的なものであったことから、バンド名にドラゴンスレイヤー(Dragonslayer)と名付けるつもりだった。しかしレーベルはこの名前にオリジナリティを感じないとして難色を示し、最終的に彼等のバンド名は、ディオ(Dio)のアルバムタイトルからインスパイアされた『Dream Evil』とすることになった。
ノルドストロームの夢は DREAM EVIL というバンドとなり、満を持してそのデビューアルバムは『Dragonslayer』というタイトルで2002年4月にリリースされた。
アルバムはプレスから好意的な評価を得るだけでなくセールスも好調で、日本の輸入盤チャートでも1位を獲得している。その後バンドは多くのフェスティバルに出演。またブラインド・ガーディアンのワールドツアーの一部でサポートアクトを務めた。
バンドの成り立ちを振り返ってみると DREAM EVIL のメンバーは一見運命の悪戯で行き当たりばったりに集まったようにも見えるが、彼等はプレイを通じてバンドとしてのチームワークを深めスノーウィー・ショーもその後、正式にバンドメンバーとして加入することになる。
ギタリストのガス・Gは雑誌のインタビューで
このアルバムはコンセプトアルバムであり、
「ドラゴンとの戦いに敗れた王の物語だ。ドラゴンは敗者の心臓を奪い敗者は
永遠の眠りにつく。王の部下には、偉大で有名な戦士が残っており、彼にとっ
てはドラゴンを討ち果たして君主を救うための心臓を取り戻すことが任務とな
る。このように歌詞は重くて暗いファンタジーを扱っていて、コンセプトとな
る物語と強い結びつきがあること考えると、作曲と同等の熱意をもって取り組
まなければならない。どの曲が、ということでなく、アルバム全体を通して物
語とそのテーマを読み解く必要があるんだ」 と語っている
実際のところこのアルバムは、どれもドラマチックな楽曲で構成されており、コンセプトアルバムにありがちな「かなり退屈な曲」があまりない(少しはあるけど)充実した内容となっている。
ちょっと面白いエピソードもあって、このアルバムの ‘outro’ はイェーテボリ・フィルハーモニック・ストリングス・セクション(他にもアルバムの一部でプレイしている)の練習パートを録音したものを使用している。フレドリック・ノルドストロムは長い ‘intro’ が嫌いなので冗談で最後に入れることにしたそうだ。コンセプトアルバムなのにw(往々にしてこの手の作品にはイントロが冗長なものが多い)
ガス・Gは歌詞について力を入れていたことを強調しているがその楽曲やプレイも当然見逃せない。ギターソロによっていはドロップDチューニングを使っているものがあり、パワーメタル特有の素晴らしいフックを装備している。
冗長なイントロなしに幕を開ける M-1. “Chasing Dragon” はスノウィー・ショーのひと味違うドラミングがいきなりその効果を発揮しており、アルバムの勇壮な物語の世界に聴き手を一気に引き込む。
続く M-2. “In Flames You Burn” ではリードシンガーに抜擢されたイスフェルトがアルペジオのイントロでゆったりと歌い出しパワフルに盛り上がりへと誘う見事な歌声を披露している。
もっともコンセプトアルバムらしい趣を見せるのが M-5. “The Prophecy” からM-6. “The Choosen One” へと流れ込んでいくアルバム中盤だ。
M-5.はドラゴンとの対決に向かわんとする戦士の姿と心情を素晴らしいスピード感とプッシュをかけたプレイで物語を盛り上げていく。ここでもスノウィー・ショーのドラミングが素晴らしい。
一転して M-6. では荘厳なコーラスとストリングスを軸にドラゴンを倒した英雄の凱旋を演出しており、その中でプレイされているガスGのギターソロがドラマチックに曲を盛り上げており彼の才能を感じさせる。
なお日本盤では一部トラックリストが変更されて、M-3.に”Dragonheart”という曲が追加されたりトラック順がぐちゃぐちゃにされている。管理人も輸入盤しか所蔵していないので、この変更がメンバーが関与して意図したものなのかが不明だがコンセプトアルバムで曲順変更は腑に落ちないと感じる。ボーナストラックとして “Losing You” のインストVer.が追加されていたりもするが、できればオリジナルを輸入盤で聴くことをおすすめしたい。
ご紹介しているSpotifyのアルバムトラックはオリジナル盤と同じトラックリストなのでこちらでもどうぞ。
Origin : | Gothenburg, Sweden |
Released : | 2002. 7. 20 |
Label : | Century Media Records |
Producer : | Fredrik Nordström |
Studio : | Engineered and mixed at Studio Fredman. Mastered at the Mastering Room |