耳をすませば聴こえる雨音の調べ
#0048
『Women and Children First』(邦題:暗黒の掟)は、1980年3月に発売されたヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)の3rdスタジオアルバムで、デビューアルバムではキンクスの “You Really Got Me” を大胆にアレンジしたり、2ndアルバムでも60年代R&B歌手がヒットさせた “You’re No Good” をカバーするなど積極的にカバー曲をプレイしてきた彼等が、初めて全曲オリジナルで製作したアルバムだ。
ヴァン・ヘイレンはアメリカンハードロックを代表するバンドで初期ラインナップは Vo.にディビッド・リー・ロス(David Lee Roth),Bassにマイケル・アンソニー(Michael Anthony)そしてヴァン・ヘイレン兄弟(Drumsの兄が Alex Van Halen、そして弟が Gutar の Eddie Van Halen)というメンバーだった。
フロントマンのロスを中心にどちらかと云えばパーティロック的なサウンド指向だった彼等だが、このアルバムでは少しサウンドに変化がみられ、よりヘヴィでダークな色彩を帯びてきている。またアコースティックギターを取り入れるなど音楽的な幅にも進化がみられた。
そのジャケットアートのモノクロ写真にもそうした雰囲気が伝わるものがある。
なお前2作と同様に、このアルバムもハリウッドにあるサンセットスタジオでレコーディングされており、プロデューサーは引き続きテッド・テンプルマン(Ted Templeman)が務めている。またレコーディングエンジニアとしてダン・ランディ(Dann Landee)も参加していた。
(ランディはのちに7枚目・8枚目のプロデュースを手がけることになる)
なお、この3rdアルバムはスタジオでのオーバーダビング(多重録音)が多く、バッキングコーラスがあまり強調されていない曲が多いのが特徴になっている。その理由のひとつは、M-9. “In a Simple Rhyme” と M-7. “Take Your Whiskey Home” の2曲が、バンドにマイケル・アンソニーが参加するより以前に制作されたデモ音源として書かれたもので、すでにレコーディングもされていたからだ。
また他にも2曲ほどはすでにライブでは演奏していたナンバーが含まれていた。
(M-3. や M-6. あたりは70年代すでに彼等のレパートリーだった)
一方、アコースティックでのギタープレイが聴ける M-8. “Could This Be Magic? ” では、彼等には珍しい女性のバッキングヴォーカルを聴くことができる。
さらにこのトラックには雨垂れの音が加えられているが、管理人がはじめてレコードでこのアルバムを聴いたとき「新品なのにスクラッチノイズが?!」と思わず焦ってしまった記憶がある。
実はこれは実際にスタジオの外に雨が降っていたのをマイクを使って生録したものバックトラックに加えているそうだ。当時の再生環境ではすぐに雨音とは分からないのよ、、、、
また、M-1. “And the Cradle Will Rock…”での特徴的なイントロは、ギタースクラッチを加工したようなサウンドに聴こえるが、実際はウーリッツァーの電子ピアノに、エディのMXRフランジャー(ジェット機音が揺れるような効果を生み出すエフェクター)をかまして 100Wのマーシャルアンプに接続して演奏したものを使っているそうだ。こうした遊び心を通じて、単なるギター小僧ではない、エディのサウンドメイクに対する探求心を垣間見ることができる。
とは云っても、このアルバムでもエディのギターサウンドが音楽表現の中心に据えられていることは変わらず前作を上回るさらに多彩なギターサウンドを全編にちりばめている。またベースプレイとドラミングを前面に押し出すミックスも健在で、バンド初期サウンド作品の到達点さえ感じさせる迫力のある一枚になっている。
ちなみに、このアルバムのラストを飾る M-9. “In a Simple Rhyme” がいったん終了すると、最後の約20秒足らず(4’18″あたりから)の極々短いインストが隠されるように収録されている。
これはその当時次作のアルバムをこのインスト= “Growth “の続きから始めようというアイデアがあっただそうだが、結局そのアイデアは採用されてはいない。
ただこのインスト曲 “Growth” はデビッド・リー・ロス時代の彼等のライヴでの定番曲となっておりアンコール頭に使われたりしている。
1983年を過ぎた頃になると、レーベルやプロデューサのテッド、それにディビッド・リー・ロスらに振り回されることにうんざりし始めていたエディは、自宅スタジオ「5150スタジオ」建設に着手する。この計画を手伝ったのがこのアルバムでもエンジニアを務めてきたダン・ランディだった。
彼が手配して取り寄せたミキシングデスクや機材はバンドが過去5年間にサンセットスタジオでレコーディングしてきたものとほぼ同じでエディの自宅スタジオで楽曲製作が進められる環境を作り上げるのが狙いだった。
そしてこれらのスタジオ機材が設置される間の待ち時間をつぶすため、エディはシンセサイザーでの曲作りに取り組み始め、ロスやテンプルマンからの「干渉」を感じることなく、いくつかの楽曲製作に専念することができたようだ。
そうした結果生まれたのが、あの有名なシンセキーボードのイントロではじまるあの曲で、、、
その話はまたいずれ。
Origin : | Pasadena, California, US |
Released : | 1980. 3. 26 |
Label : | Warner Bros. Inc. |
Producer : | Ted Templeman |
Studio : | Sunset Sound Recorders (California, US) |