百眼の巨人はツインギターを装備した
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ウィッシュボーン・アッシュ(WISHBORN ASH)はアンディ・パウエル(Andy Powell)とテッド・ターナー(Ted Turner)という2人のギタリストが奏でる美しく哀愁のあるツインリードギターによるハーモニーが持ち味で、そのスタイルでバンドの人気を確立した。その後ツインギターで著名となったバンド達を中心にして(イーグルス,ジューダス・プリースト,アイアン・メイデン,レイナード・スキナード,シン・リジィ,メタリカ,ドリーム・シアター,オーヴァーキル,オーペスなど)、多くのバンドが彼等ウィッシュボーン・アッシュの演奏スタイルから影響を受けたと語っている。
アイアン・メイデン(IRON MAIDEN)のバンドリーダーでBassプレイヤーのスティーヴ・ハリス(Steve Harris)は「メイデンの初期のナンバー、特に独特な(ツイン)ギターのハーモニーが何かということを理解しようとするならば、すべからくウィッシュボーン・アッシュの『Argus』を聴けばいいと思う」と語っている
ウィッシュボーン・アッシュの創設メンバーである Lead Vo./Bass のマーティン・ターナー(Martin Turner)と Durms のスティーヴ・アプトン(Steve Upton)が前身となるトリオグループを1963年に結成したのがはじまりで、新たなギタリストを募集するオーディションを開催したところ、アンディ・パウエルとテッド・ターナーが共に応募してきた。この2人のギタリストが甲乙つけがたいことから2人を同時にメンバーに迎えることになった。メンバーが2枚の紙にバンド名の候補案をいくつか書いたなかからマーティン・ターナーが選んだ2つが「ウィッシュボーン」と「アッシュ」だった。
こうして1969年ウィッシュボーン・アッシュのオリジナルラインナップがスタートする。
(このラインナップは彼等の4枚目のアルバムまで継続することになる)
1970年初頭、彼等は同じブリティッシュハードロックの雄ディープ・パープル(DEEP PERPLE)のオープニングアクトを務める機会を得た。そのパフォーマンスを観たギタリストのリッチー・ブラックモア(Ritchie Blackmore)が、彼等をプロデューサーのデレク・ローレンス(Derek Lawrence)に推薦したことでDecca/MCAとのレコード契約に至った、という逸話がある。
こうしてバンドは1stアルバム『ウィッシュボーン・アッシュ』で1970年12月にデビューすると、その1年後には2ndアルバム『Pilgrimage』(邦題:巡礼)をリリース。
そして1972年にリリースするこの3rdアルバム『Argus』(邦題:百眼の巨人アーガス)が彼等の名を広く世界に知らしめることになる名盤となる。このバンド初期3枚のアルバムをプロデュースしたのが先のデレク・ローレンスだった。
このアルバムはUKアルバムチャートでも最高位(3位)にランクイン。20週の長きに渡りトップ100圏内を維持して彼等にとって最も商業的な成功を収める作品となった。
オリジナル盤は7曲入りの構成となっており、もっとも長い M-1. “Time Was” は9分42秒で殆どの曲が5分以上の構成となっている。これはイントロからソロまでツインギターの魅力を遺憾なく発揮した結果で2人のギターの掛け合いがたっぷりと聴けるし、ドラマチックな楽曲とギターリックが随所に楽しめるアルバムとなっている。
なおタイトルとなった「アーガス」はアプトンのアイデアで古代ギリシア神話に登場する「アルゴス」のことだ。身体に無数の目(百眼)をもつ巨人で交代で目を瞑ることはあっても、いずれかの目が常に覚醒しているため、決して眠ることはなく死角もなく多くの怪物を退治したという。そしてそのジャケットアートも大変印象的だ。デザインを担当したストーム・ソーガソンによると、プロヴァンス地方のとある風景を見下ろす戦士の後ろ姿は映画『肉体の悪魔』で使われた衣装を借りて実際にフランスで撮影したという。
M-1. “Time Was” は美しいアルペジオのイントロからゆったりとしたテンポで展開する長尺曲だが、ツインギターが小気味よく掛け合いを続けるため9分超でもあっという間に過ぎてしまう。
このアルバムでもっとも有名な曲は M-4. “The King Will Come” だろうか。ワウペダルのイントロから徐々にフェードインしてきて各パートが合流するや美しいコーラスを聴かせてくれる。ワウペダルを踏みまくるギターソロがとてもいい!
最近のラインナップは当時と異なりアンディ・パウエルがヴォーカルまで務めているが、トレードマークのフライングVがよく似合う。
管理人が一番好きな曲はB面のクライマックスとなる M-5. “Warrior” でジャケットデザインを連想するタイトルといい、曲の終盤に向かって盛り上がっていくツインギターと哀愁たっぷりに歌い上げるヴォーカルとコーラスが最高にカッコイイ♪
同じくツインリードギータでサザンロックを切り開いてきたアメリカの大御所オールマン・ブラザーズ・バンド(Allman Brothers Band)とはその音楽性において大きく異なっており,ウィッシュボーン・アッシュはブリティッシュ・ハードらしいウェット感と、プログレッシブ・ロックやトラディショナルなフォーク、そしてクラシック音楽の要素さえ感じとることができる。
なお、管理人がウィッシュボーン・アッシュを初めて知ったのは、BBCラジオによって1972年に PARIS Theatre で収録されたライブ録音音源で、これを確かNHK-FMがフル尺でオンエアしたものだった。この時のFM放送を SONYのJHF(銀色帯でTypeII=クロームポジションのちょっといいやつ)というカセットテープにエアチェックしたものを後生大事に聴き続けていた。
おそらくまだ実家のどこかにまだあるはずなので、改めていまのオーディオ環境で聴いてみたいと密かに楽しみにしている。
Origin : | Torquay, Devon, England, UK |
Released : | 1972. 4. 28 |
Label : | Decca Records / MCA Inc. |
Producer : | Derek Lawrence |
Studio : | De Lane Lea Studios (London, UK) |