新たなる血で甦るデンマークの古参スラッシャー
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アーティレリー(Artillery)はデンマーク産の古参スラッシュメタルバンドで、1982年にドラマーCarsten Nielsen(カーステン・ニールセン)とギタリストJorgen Sandau(ヨルゲン・サンダウ)によってコペンハーゲン郊外で結成された。バンド名は「野砲」(大砲)のことを意味するが、これは Tank の名盤『Filth Hounds of Hades』に収録されている曲 “Heavy Artillery “ に由来する。
スラッシュメタルシーンの初期1980年代から1990年代初頭にかけてスタジオアルバム『Fear of Tomorrow』(1985)『Terror Squad』(1987)と順調にフルアルバムをリリースしてツアーをたびたび行っていたが、1989年にギタリストのヨルゲン・サンダウが脱退。
ベーシストだったMorten Stutzer(モーテン・シュトゥッツァー)がギターパートを引き継ぎ、図らずも弟ミカエル(Michael Stutzer)との兄弟ツインギターという体制になる。ベースは新たに加入した Peter Thorslund(ピーター・ソールスルンド)が担当する。
同年、アーティレリーは当時ソ連だったタシケント(現在のウズベキスタン首都)を訪れて地元の音楽フェスにも出演。また新たなラインナップで 3rdアルバム『By Inheritance』をLPとCDの両方で Roadrunner Records からリリースする。これはスラッシュメタルファンの中でもかなり好評を博した作品だったのだが翌年1991年にバンドは解散してしまう。
7年後ドラマー以外ほぼオリジナルメンバーで再結成。4thアルバム『B.A.C.K.』を1999年にリリースはしたものの2000年に再び活動を停止してしまう。
そして2007年に再びバンドは再結成。その後はメンバーチェンジや、オリジナルメンバーでギタリストの兄モーテン・シュトゥッツァーが57歳の若さで急死という悲劇を乗り越え、現在まで活動を継続している。
アーティレリーの1stや3rdアルバムも良盤なのでいずれ是非紹介したいのだが、今回は2007年に再々結成したメンバーで制作した5thアルバム『When Death Comes』を取り上げてみたい。
デビュー初期3枚のアルバムと前回再結成時もヴォーカルを務めてきたシンガーのフレミング・ロンスドルフ(Flemming Ronsdorf)はこの2回目の再結成にあたり脱退が発表された。新たなヴォーカリストとしてソーレン・アダムセン(Soren Nico Adamsen)がラインナップに加わっている。このバンドの作品の魅力のひとつにクセツヨなロンスドルフのヴォーカルが生み出す独特な緊張感といったものもあったため、看板シンガーの交代劇による再々結成であることや、前回リリースから10年空いたブランクなどもあって、旧来からのアーディレリファンは手放しに復帰を喜ぶというよりは少し心配をしていたように思う。
しかしそんな杞憂など吹き飛ばすかのように、新ラインナップによる2009年発表の復帰アルバムは出色の出来となった。
いにしえからのスラッシュメタル鉄板伝統芸、ザクザクとしたギターリフをシュトゥツァー兄弟がこれでもか刻みつけ、衰えをしらない高速ソロも魅せてくれるなか、新ヴォーカリストのアダムセンがスラッシーな勢いのある歌い方とメロディをしっかり歌い上げる歌唱法を巧く織り交ぜて、リードシンガーとしての魅力をしっかりと叩きつけてきたのだ。
しかもスラッシュメタルの魅力を存分に詰め込みながらも、スラッシュメタル初期作品にありがちなサウンドプロダクションの悪さもなく、非常にタイトにミックスされた作品に仕上げられている。
そしてなんとこのアルバムのプロデューサーとミキサーには、新参者シンガーのアダムセンがクレジットされているのだ。
もちろん他にもエンジニアは参加しているのだろうが、このアルバムを当時初めて聴いてこれを見たときは本当に驚いた。この作品がこれほどのレベルで仕上がったことに新メンバーのアダムセンが大きく貢献したことは間違いない。
M-3. “10,000 Devils” のMVではシュトゥツァー兄弟のいぶし銀なギタープレイが健在なのがみられて嬉しかったし、新ヴォーカリストのアダムセンが張りのあるヴォーカルを聴かせる迫力のあるナンバーとなっている。
なお収録曲のうち M-6. “Delusions of Grandeur” および M-9. “Uniform” は1991年に製作したデモ音源の楽曲をこのアルバムで再レコーディングしたものだ。
アダムセンは2011年の6th『My Blood』にも参加したがその後にアーティレリ-を脱退している。しかしモルテン訃報に際してはその追悼イベントにも参加するなどバンドとの関係は良好だったようだ。また現在は同じデンマークをベースに GUTTER CREEK というバンドに参加していて、つい最近も新曲を披露していた。
まだまだこのバンドは知名度は低く情報も極端に少ない。アダムセンのヴォーカルに衰えは感じないが、正直他のパートは凡庸で楽曲にフックもない。個人的にはかなり気にかけているメタルアーティストの一人なので今後も動向が気になるところだ。
Origin : | Taastrup, Denmark |
Released : | 2009. 6. 15 |
Label : | Metal Mind Productions |
Producer : | Søren Andersen |
Studio : | Medley Studios(Copenhagen, Denmark) |