ネオスラッシュからメタルコアへの渡月橋
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スウェーデンのイエテボリ(ヨーテボリ)出身のバンド達により育まれたメタルの新たなサブジャンルには大きく二つの流派があったのではなかろうか。ひとつは DARK TRANQUILLITY , IN FLAMES, AT THE GATES らの流れを汲むメロディック・デスメタル。そしてその AT THE GATES 解散後元メンバーを中心に結成されたこの THE HAUNTED によるデスラッシュだ。
ザ・ホーンテッド(THE HAUNTED)は、1996年に解散した AT THE GATES から Lead Guitar のアンダース(Anders)と Bass のヨナス(Jonas)ふたりのビューラー兄弟(Björler)、そして Drums のエイドリアン・アーランドソン(Adrian Erlandsson ちなみに ARCH ENEMY のダニエルは実弟)が中心となり、元SEANCE から Rythm Guitar にパトリック・ヤンセン(Patrik Jensen),同じくイエテボリ出身のメタルバンド Mary Beats Jane からピーター・ドルヴィング(Peter Dolving)が加わり、1996年にイエテボリで結成された。
”Demo’97”と呼ばれるデモ音源を作成した後、Earache Records と契約。1998年にセルフタイトルの 1stアルバム『the Haunted』をリリースする。そのサウンドは AT THE GATES 時代に培った叙情的なメロディック要素を取り入れたメロディック・デスメタルとは全く異なり、スラッシュメタルにデスメタルのブルータル性をぶち込んでさらに音圧を分厚くして ”デスラッシュ” と云われる新しいスラッシュメタル=ネオスラッシュを提示してきたのだった。
90年代後半には既に多くのフォロワーを生んでいた AT THE GATES のメロディック・デスメタルという、謂わば成功したジャンルに固執して安住することなく、新たなバンドで全く異なる音楽性を求めるという姿勢は、その後の THE HAUNTED というバンドがみせる音楽性の変遷にも通じるものがある。
なお1996年に解散した AT THE GATES も、2007, 2010年と解散・再結成を繰り返しながら現在でも存続しており、兄アンダース・ビョーラもバンドから出たり入ったりを繰り返しつつバンドとの関わりを保ち続けている。メロディック・デスメタルというジャンルを産み出したこの AT THE GATE についてもいずれこのブログで取り上げたい。
こうして新たな地平を求めたメンバーにより製作されたアルバム『the Haunted』は、多くのメタル専門誌からこの年のベスト新人賞あるいはベストアルバムのひとつとして賞賛され、彼等が提示したスラッシュメタルとデスメタルの融合=デスラッシュは新たなスラッシュメタルの可能性を見いだしたネオスラッシュとして、その草分け的存在となった。
バンドはこのあとNapalm Death とイギリスツアーを行うなど順調な滑り出しを見せたかにみえたが、1999年に入ると Vo.のドルヴィングがソロ活動に従事するため、Drums のアーランドソンはイギリスのエクストリームメタルバンド CRADLE OF FILTH に加入するためバンドを去る。
そして THE HAUNTED はその後アルバムをリリースするたびに、メインヴォーカルが入れ替わり立ち替わり2人のメンバーで回されることになる。続く2nd, 3rdアルバムに参加する マルコ・アロ(Marco Aro)に対し、4~7thではドルヴィングが復帰。さらに2014年の8thから現在まではまたマルコがバンドに戻っていて現在に至るといった具合だ。そのあたりの聴き比べも面白いので是非。
マルコが初参加した2ndアルバム『Made Me Do It』から M-2. “Barry Your Dead”
1stアルバム『the Hauntede』のオープニングにはギターアンプに火を入れた時のようなノイズSEから幕が開けるのだが、その後に聞こえるメンバーの声?がどうしても「やったろうぜ!」という日本語に聞こえるのは自分だけだろうか??俺的空耳アワーのひとつでいつも悩ましい気分になるww
M-1. “Hate Song” から M-4. “Undead” までは彼等のベスト盤にも収録されているようにこれがデスラッシュだと言わんばかりの怒濤の4曲なので是非聴いてみて欲しい。
M-6. “Three Times” は彼等の面白い試みが聴けるナンバーで、ラップのように超高速で歌詞を詰め込んでみせる。続く M-7. “Bullet Hole” でも変則的なリズム展開と要所要所でほぼブレイクに近い休符を入れてくるなど、このあたりのアイデアは後進のメタルコアバンドに与えた影響があったことを感じさせてくれる。
かと思えば、M-8. “Now You Know” ではザクザクのリフとツーバスの中にも美しいギターソロを織り交ぜてきたと思うと突如ファルセットでエンディングを迎えるなど、とにかく引き出しが多い。
この一見(一聴か)すると全て同じに聴こえるエクストリームなメタル楽曲群でありながら、ようく集中してアルバムを通して耳を傾けてみると、実に細かく多彩なアイデアが仕組まれていて飽きさせない。このアルバムが非常に高い評価を受けたことが頷ける濃い内容になっている。
デビューアルバム『the Haunted』に収録されたのはオリジナルリストは全12曲。2015年のリイシュー盤でボーナストラック2曲が追加された。現在どちらも廃盤となっていて入手はかなり困難。いずれ再リリースも期待できる名盤ではあるが、若いメタルヘッズは中古盤を見かけたら、とりあえず買っておくことをオススメしたい。
Origin : | Gothenburg, Sweden |
Released : | 1998. 6. 23 |
Label : | Earache Records |
Producer : | Fredrik Nordström |
Studio : | Studio Fredman |