サウンドリファレンスとなる至高の生ドラム
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ディキャピテイテッド(Decapitated)はポーランド出身で高い演奏技術で知られる。テクニカル・デスメタルバンドの代表格だ。
1996年、当時15歳だったギタリストのヴァツワフ・”ヴォッグ”・キウティカ (Wacław “Vogg” Kiełtyka) を中心に、その弟(当時12歳)ヴィトルド・”ヴィテク”・キウティカ (Witold “Vitek” Kiełtyka) と、16歳だったヴォーカリストのヴォイチェフ・”サウロン”・ヴァソヴィチ (Wojciech “Sauron” Wąsowicz) によってポーランドのクロスノで結成された。1年後、当時13歳の Bass マルチン・”マーティン”・リギエル (Marcin “Martin” Rygiel) がバンドに加わる。結成当時のメンバー平均年齢はなんと14歳だったという。
この若きエクストリームメタルの伝道者達は、1997年に1stデモ『Cemeterial Gardens』を、そして1998年に2ndデモ『The Eye of Horus』をリリース。2000年にはEarache Records傘下のWicked Worldとの契約を得てSlayerの “Mandatory Suicide” カバーを含む1stアルバム『Winds of Creation』をリリースする。このデビューアルバムでは同郷のデスメタルバンドでフロントマンを務めるVaderのPiotr Wiwczarekがプロデュースを担当した。
DECAPITATEDの鮮烈なデビューはポーランド国内のみならずヨーロッパ全域のメタルヘッズに、とんでもなくテクニカルなのにメチャメチャ若い年齢のバンドだぞということで急速に認知されることになった。
その後も彼等は順調にキャリアを積んでいくことになるが、2005年になり Vo.のサウロンが健康上の理由等からバンドからの脱退を発表。後任としてAtrophia Red Sunのメンバーであったアドリアン・”コヴァン”・コヴァネク (Adrian “Covan” Kowanek)が加入する。そしてこれまでの作品とは方向性が異なる野心的な4枚目のアルバム『Organic Hallucinosis』を2006年にリリースする。
メンバーチェンジを経ながらも着実に成長を遂げてきたDECAPITATEDだったが、2007年10月28日突然の悲劇が彼等を襲う。メンバー3人を乗せたツアーバスがロシアとベラルーシ国境近くで材木を積んだトラックと衝突するという重大な自動車事故に遭遇してしまうのだ。
この事故で、Drumsを担当する弟ヴィテクと新Vo.のコヴァンが負傷。コヴァンは一時昏睡状態に陥ったが、その後ポーランドに移されて治療を続けることになった。
しかしヴィテクは2007年11月2日ロシアの病院で帰らぬ人となってしまう。享年23歳だった。
この悲劇により否応なしにバンドは活動が停止。解散状態に追い込まれたも同然だったが、弟を亡くした兄ヴォッグはこの悲劇を乗り越え数年後バンド再建を発表。そして2009年にはオーストリア人ドラマーのケーリム・”クリムウ”・レフナー (Kerim “Krimh” Lechner) と、Kethaのヴォーカリストだったラファウ・”ラスタ”・ピオトロフスキー (Rafał Piotrowski)を、さらにVesaniaのベーシストだったフィリプ・”ハインリヒ”・ハウハ (Filip “Heinrich” Hałucha) を迎えた新ラインナップで再出発する。
新ラインナップとなったDECAPITATEDは、新たにNuclear BlastレーベルとHard Impact Musicマネージメントのサポートを受けながらその活動を再開。2010年になるとイギリス,オーストラリア,ニュージーランド,ヨーロッパ各地のフェスティバルさらにはアメリカでもツアーを敢行。過去のナンバーをプレイしながらバンドとしての足場を固めていく。
そしてツアーを終えたバンドは、2011年2月ついにグダニスクのRadio Gdansk Studioに入り、5枚目となるスタジオアルバムのレコーディングを開始する。アルバムのプロデュースはヴォーグ自身が担当したが、ミキシングとドラムトラックについてはBehemothやMeshuggah,DIMMU BORGIRなどを手掛けてきたスウェーデン人プロデューサーのダニエル・バーグストランド(Daniel Bergstrand)が担当した。
レコーディング終了後、BassのハインリッヒはVesaniaの活動に専念するためバンドを離れることになったが、2011年7月『Carnival Is Forever』が遂にリリースされる。
前作4thアルバム『Organic Hallucinosis』から実に5年ぶりとなるスタジオアルバムだった。
ヴォッグはインタビューで「真にオーガニックでナチュラルなサウンド」を実現するため、今回のレコーディングでは生ドラムで(ドラム・トリガーを使わず)ダブルギタートラックなしでレコーディングした」と語っている。
「ドラムトリガー」とは
エクストリーム系メタルにおけるドラミングではツーバス連打を高速に行うことがよくあるが、バスドラの連打が速くなればなるほど、ユニゾンするトラックが複雑になればなるほど、一定の音圧に維持したりサウンドの質を一打一打揃えることは至難の技となる。そんな悩みを解決してくれるのが「ドラムトリガー」だ。
ドラムトリガーはいわばギターのピックアップのようなもので、これをリム(太鼓の縁)に装着すればドラムの打点で電気的信号を発生させることができるため、ある程度軽い力でペダルを踏むだけでも、メタルに合う「爆音バスドラのサンプル音」をトリガーして鳴らすことができるという仕掛けだ。
これはギミックというよりは、高度に緻密なペダリングが必要なメタル楽曲においてはドラマーの技量を全てペダリングに専念させることができるという意味がある。またサウンド面でも逆に生音では再現できないようなメタル特有の「ベチベチ」「スタスタ」といったバスドラを出せるという効果を狙う場合もあり音作りの面でも活躍する。
ヒップホップ系のトラックメイカーやDJが、James Brown の “Funky Drummer”のような過去の優れたドラムトラックをサンプリングして、新たにブレイクビーツのような複雑で人間がリアルタイムでは叩けないようなリズムを再構築するといった手法があるが、エクストリーム系メタルのドラムにおいてはドラミングは人間の技に託したままにして、そのサウンドメイク(音作り)だけをサンプリングでより楽曲にマッチさせるといったアイデアでサンプルを活用していると云えるだろう。
すっかり話が逸れてしまったが、このアルバムではエクストリーム系メタルの現場ではほぼ常識となっていたドラムトリガーを使わずに録音したというのだ。
この話は正直にわかには信じられなかった、、、というのも、このアルバムのドラムトラックは他の作品と比べても遜色なく、むしろそのタイトな音の粒揃いなどすべてが素晴らしいプロダクションだったからだ。
特に M-4. “Homo Sum” は高速ギターリフのイントロに被せるように入ってくるリムショットの連打から始まるドラミングがまさに垂涎もののサウンドで、管理人にとってはこれがオーディオ機器購入時の「サウンドリファレンス」(判断のための一定基準)となっている曲なのだ。
リムショット連打の残響とドラム楽器の響きに耳を澄ませてほしい!
この曲を聴いて、最初のリムショット残響がしっかり捉えられているか?ギターのリフやヴォーカルに埋もれることなくドラム楽器それぞれの粒立ちがしっかり聴き取れるか?そもそも曲全体が気持ちよく聴けるか?そういった点を注意深く聴いてからヘッドフォンやイヤフォンを購入する際の決め手にしている。
M-5. “404” ではさらに複雑なリズムのプレイが楽しめる。もはや変態的なほどテクニカルすぎてなんでこんな曲がパフォーマンスできるのか意味がわからない笑
メンバーそれぞれの演奏技術がテクニカルなだけでなく、轟音の塊のようなトラック達を作品として高いレベルでミックスするのはエクストリームメタルだからこそのハードルがあるだろう。しかしこのアルバムはまさに至高と言えるほどのサウンドプロダクションで高いレベルでそれを実現している。
このアルバムは、DECAPITATEDが完全復活したことを宣言した彼等にとってもターニングポイントとなった作品だった。
Origin : | Krosno, Poland |
Released : | 2011. 7. 12 |
Label : | Nuclear Blast(日本盤:Nippon Columbia) |
Producer : | Wacław “Vogg” Kiełtyka, Daniel Bergstrand (Mixing, Drum production) |
Studio : | Radio Gdansk Studio(Poland) |