大人の扉を開けた3周年アルバム
#0059
中森明菜 5枚目のスタジオアルバムで彼女のデビュー3周年記念としてデビュー記念日にあたる1984年5月1日にリリースされた。この前年にベストアルバム『BEST AKINA メモワール』をリリースしているためかジャケットには大きく「6thアルバム」と記載されている。
管理人がもっとも好きな7thシングル曲『北ウィング』が収録されていることもあって、明菜のLPレコード(アルバム)ではもっともターンテーブルに乗る機会が多かった気がする。彼女の80年代のアルバムはデビューから10枚目までは全て購入しているが、このアルバムと、最も好きな曲 “ドラマチック・エアポート” が収録された次作『POSSIBILITY』が大好きなので、自分的には中森明菜モチベが最も高まっていたのが、この1984年だったと思う。
なおジャケット写真にも見られるように、このレコードの一部はバハマの首都ナッソーにあるコンパス・ポイント・スタジオ (Compass Point Studios) で収録が行われている。アイランドレコードの設立者により建設された著名なスタジオで、THIN LIZZYの『Black Rose』やAC/DCの『Back in Black』などがここで製作されている。
またチェーリー・アイランド・スタジオは西郷輝彦が開設したスタジオで出身地・鹿児島の「桜島」に名前の由来がある。明菜楽曲の歌入れの多くがここで行われており、東京タワーが見えるなど彼女自身もお気に入りのスタジオだったようだ。
アルバム楽曲を提供した作家陣も大変豪華で、ご存じ康珍化と林哲司の黄金コンビによるシングル『北ウィング』の他にも、作曲陣に尾崎亜美,玉置浩二,来生たかお,細野晴臣,佐藤寿一(キャンディーズ『暑中お見舞い申し上げます』や、日本で最も売れたシングル盤『およげ!たいやきくん』『いっぽんでもニンジン』の作編曲者),国安わたる(後に明菜15thシングル『ジプシークイーン』を作曲)といった面々が揃う。また M-4.「夢を見させて…」では中森明菜自身が作詞にも挑戦している。
また故・松原正樹氏の素晴らしいエレクトリックギターがたくさん聴ける1枚でもある。名曲 M-5.「北ウィング」をはじめ、M-1.「アサイラム」では軽快なカッティングが、 M-3.「Easy」では流麗なギターソロ、M-6.「100℃バカンス」でも波打ち際のSEとともに伸びやかなギターソロを聴かせてくれる。そしてM-8.「メランコリー・フェスタ」ではこれぞ真骨頂といえるようなコードストローク、それぞれ全く違うタイプのプレイを堪能することができる。
ちなみに他のトラックは、こちらも故人となってしまった矢島賢氏によるもので、松原正樹氏と矢島賢氏のギタートラックが交互に聴けるとか、それだけでご飯三杯はいける1枚になっている(笑)
矢島氏は特にM-10.「シャット・アウト」で弾きまくっているのでこちらも要チェックのナンバーだ。
M-3.「Easy」は、尾崎亜美の作詞作曲を瀬尾一三がアレンジしており、ブラスセクションを効果的に使いながらタイトなリズムトラックと松原正樹氏のギターでかなりロックテイストの強いナンバーとなっている。アルバムの中でも好きな曲のひとつだ。
しかしシングル「北ウィング」とこの「Easy」はこのアルバムではどちらかというと異色の存在となっていて、アルバム全体は南国の賑やかな昼間の雰囲気と、その夜に星空の下で聴くのにぴったりな哀感を込めたバラードが中心に構成されている。そういう意味では同年4月にリリースされた8thシングル「サザン・ウインド」の方がこのアルバムの雰囲気にはマッチするように思う。(「サザン・ウインド」は9thシングル「十戒」と共に次のアルバム『POSSIBILITY』に収録された)
来生姉弟による M-7. 「夏はざま」は、演歌を思い起こさせるようなしっとりとしたバラード曲で、囁くようなか細い声のパートと力強く歌い上げるパートを見事に唄い分けていて、あまり知られていないが、中森明菜の隠れた名曲のひとつだと思う。是非ヘッドフォンで聴いてみてほしい1曲。
アルバムにこうした多彩なタイプの異なる曲が選曲されていることからも、中森明菜がアイドルから女性歌手としてその存在感をぐっと増してきた、そんな過渡期に位置する作品となっていて興味深い。
いまの若い人にも’80年代ポップミュージックがリバイバルブームとなっているのはとても嬉しい。もちろんヒットシングルばかりを集めたプレイリストも良いのだけど、たまにこうしたアルバムにも耳を傾けてみてもらって、当時一流のクリエイターとミュージシャンが集められて製作された作品を通して聴いてみて欲しい。きっと自分だけのお気に入りの一曲を見つけることができるはずだ。
Origin : | Kiyose, Tokyo, Japan |
Released : | 1984. 5. 1 (the 3rd anniversary of Akina NAKAMORI’s debut) |
Label : | Warner Pioneer records |
Producer : | 島田雄三(Yuuzou Shimada) |
Studio : | Aoi Studio (Azabu-Jyuban, Tokyo) Cherry Island Studio (Aoyama, Tokyo) Compass Point Studios (Nassau, Bahama) |