鋼鉄馬を駆るブリティッシュメタルの大御所
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サクソン(Saxon)は、1975年にイングランドの南ヨークシャにあるマーケットタウン、バーンズリーで結成された。イギリスのヘヴィメタルバンドの草創期から息の長い活動を続けている大ペテランで、アイアンメイデンやデフ・レパードと共にNWOBHMムーヴメントを牽引した。
彼等のもっとも凄いところはメンバーチェンジやアメリカ進出挫折などの紆余曲折はありながらも、ベテランになってからも決して大作主義に陥ることなく、およそ1~3年の周期でコンスタントにスタジオアルバムを発表し続けていることだ。出来たてホヤホヤの最新作は2024年1月19日に発表された『Hell, Fire and Damnation』で、これは彼等にとってなんと24枚目のスタジオアルバムにあたる。

最新作から先行カットされたシングルのMVを観てもその音楽スタイルは40年間殆ど変わらない。
(オリジナルメンバーのポール・クインの個性的なバンダナ姿が見られないのが寂しいが、、、)
1980年代には全英トップ40に入るアルバムを8枚輩出しており、そのう4枚がトップ10入り、2枚はトップ5に到達した。全世界で2,300万枚以上のアルバムを売り上げて最古参メタルバンドとして確固たる地位を築き、その後進にも多大な影響を与えてきた。
サクソンの初期メンバーは、Vo.でフロントマンを務めるビフ・バイフォード Biff Byford,Gt.のグラハム・オリバー Graham Oliver とポール・クイン Paul Quinn,Bassのスティーヴ・ドーソン Steve Dawson そしてDrums にはピート・ギル Pete Gill というラインナップだった。
80年代半ばにEMIレコードに移籍したが、80年代後半からアメリカ市場を意識したコマーシャリズムの影がバンドの作風にも影響を与えはじめ、彼等本来の無骨なサウンドは徐々に骨抜きにされていった。その結果、ファン層の衰退をも招くことになり、EMIとの契約が終了した時にはアメリカ市場を断念すると同時に、レコード会社や多くのライブステージに出場する機会を失うなどバンドにとって最大の危機を迎えるに至った。
だが90年代に入り改めて Virgin Records との契約を得ると、1991年にリリースした10thアルバム『Solid Ball of Rock』でまた生々しくヘヴィなサウンドに回帰することに成功。ヨーロッパでのツアーやフェスへの地道な活動を通じて徐々にクラシックなメタルファンを呼び戻すと同時に新たな和解メタルキッズを徐々に獲得していく。
10thアルバムにおいてシンガーのビフ・バイフォードはこう記している「我々のオーディエンスのために――それにオーディエンスなくしてバンドの存在はあり得ないんだ….我々のフォーカスは『Solid Ball of Rock』に戻ったんだ」
90年代には既にバンドを脱退していたグラハム・オリバーとスティーヴ・ドーソンによって「Saxon」のバンド名が商標登録され、活動を継続しているバンドに対してその名前の独占使用権を主張しようとしたが、裁判の末、2003年の判決によりバンドが継続してその名前を使用することが正式に認められるという騒動もあったがバンドのキャリアが揺らぐことはなかった。
これ以降、Saxon はそのキャリアを通じて一貫して伝統的なブリティッシュ・ヘヴィメタルの魂を継承し続けている。現在オリジナルメンバーとして残っているのはVo.ビフ・バイフォードとGt.ポール・クインの2人。ただ2023年になってクインが十分なパフォーマンスが保証できなくなったとしてツアーからの引退を表明している。(アルバム製作等には引き続きメンバーとして参加を表明)
この『Wheels of Steel』はそんな Saxon の2ndアルバムで、1980年にフランスのCarrere Records からリリースして全英アルバムチャートに初登場5位を記録しゴールドアルバムを獲得。Saxon の出世作となったアルバムだ。
このアルバムを引っさげて Saxon は長期間にわたるUKツアーを敢行。1981年8月16日には第1回モンスターズ・オブ・ロック・フェスティバルに出演した。この時のパフォーマンスが大変評判をを呼び、当時からすでに語り草ともなっていたため、フェス半公式のライヴアルバムとして『Donington: The Live Tracks』をリリースしている。
このアルバムに収録された人気曲 M-3. “747(StrangersInTheNight)” はボーイング747(いわゆるジャンボジェット機)のことで、1965年に北米で起こった大停電事件のまさにその時、暗闇が覆い被さったJ.F.ケネディ空港に着陸しようとしていたスカンジナビア航空911便(歌詞では101便に変えられている)が機長のとっさの判断で急上昇して事なきを得たという航空事件を題材にしたナンバーだ。
モンスターズ・オブ・ロックに出演した Saxon が「この曲をプレイし始めたとたん、上空に飛行機が飛んできたんだよ。もちろん我々はその出来事についても曲を書いたんだ。(3rdアルバム『Denim and Leather』に収録された)“And the Bands Played On” がその曲だよ」とバイフォードがのちに語っている。
アルバム冒頭で疾走するバイクのSEから始まる M-1. “Mortorcycle Man” やアルバムタイトル曲 M-4. “Wheels of Steel” そしてこのアルバムのアートワーク等がその後のバンドイメージを決定付けることになり、イーグルと鋼鉄の馬がバンドの象徴的なテーマのひとつとなった。
彼等のライブでもこれらは代表曲としていまだに観客を沸かすナンバーとなっている。
ミドルテンポでタイトなリズムにシンプルで覚えやすいギターリフ、そしてパワフルなビフ・バイフォードのヴォーカルという鉄板は衰えることなく今後も彼らをステージへと駆り立てるのだろう。
Origin : | Barnsley, South Yorkshire, England, U.K. ![]() |
Released : | 1980. 4. 3 |
Label : | Carrere Records |
Producer : | Pete Hinton, Saxon |
Studio : | Ramport Studios (London) |