ざくざくクランチを堪能できる一枚
#0064
アメリカ西海岸のベイエリア・スラッシュメタルバンドの代表格で、2000年代初頭に再びスラッシュメタルが再興した復権ムーブメントでも重要な役割を果たし、スラッシュメタル界隈において最重要バンドのひとつであり続けたのがこのエクソダス EXODUS だ。
しかしデビュー時からレーベル契約に恵まれずラインアップが安定しないなどの不運で商業的な成功とは無縁だった。メタリカ METALLICA のリードギタリストであるカーク・ハメット Kirk Hammet がデビューアルバム直前まで在籍していたことでも知られており、そのハメットはクビになったムスティンの代わりとしてメタリカに移籍している。
かたやメタリカがこれほどの成功を収めた事実とエクソダスを比較すると、バンドあるいはミュージシャンの運不運というのも紙一重のところにあるのだなと感じさせる存在でもある。
ここで紹介する1stアルバムは1984年の夏には完成していたが、バンドとレーベル(NYCのTorrid)との問題により1985年までリリースされることがなかった。メタリカのデビューアルバム『Kill ‘Em All』が1983年7月、2ndアルバム『Ride the Lightning』が1984年7月リリースなので、エクソダスのデビュー盤が彼らが完成したあとすぐにリリースされていれば、その後のバンドの勢いは全く違ったものになっていたかもしれない。
エクソダス EXODUS は、これまでに11枚のスタジオアルバム、2枚のライヴ盤、1枚のコンピレーション、そして今回紹介する1stアルバムの再録盤をリリースしてきた。ベイエリアのスラッシュメタルシーンのパイオニアとしても知られており Testament, Death Angel, Lääz Rockit, Forbidden, Vio-lence と並んで「Big 6」とも呼ばれている。
現在も活動中だが完全なオリジナルメンバーは残っておらず、主な中心メンバーとしてはギターのゲイリー・ホルト Gary Holt そしてドラムスのトム・ハンティング Tom Hunting などが挙げられる。ヴォーカルについては出入りが激しく、今回紹介するデビューアルバムで強烈な印象を残した、故ポール・バーロフ Paul Baloff 、そして2nd以降の初期アルバムと現在もヴォーカルを担当するスティーヴ・”ゼトロ”・スーザ Steve “Zetro” Souza の二人が有名で入れ替わり立ち代わりバンドのフロントを務めいている。また2000年代前半にはロブ・デュークス Rob Dukes が務めていた。
彼らのデビューアルバム『Bonded by Blood』では、初代フロントのポール・バーロフがVo.を務めており、これがかなり衝撃的でかつ強烈な印象を残している。これはもうあれこれ書き連ねるより聴いてもらうのが一番だが、殆ど当時の映像は残っていないが公式チャネルで公開されている貴重な’85ダイナモツアーのパフォーマンスで観ることができる。(画質・音質はかなりのものだが)
曲の途中での倍速テンポチェンジによるスピーディな展開と、ザクザクとしたリフで「ベイエリア・クランチ」とも呼ばれる特徴的なサウンド。そこにバーロフのへたうま的なクセになる唄というか叫び越えが叩きつけらていて全てが狂ったようなテンションで爆走する。それでも何故か気持ちよく聴けてしまうのはこのバンドのリフが秀逸だから。陽の当たらなかったバンドでありながら未だリスペクトされる理由がわかる名盤だ。
バンドはサンフランシスコの Prairie Sun Studios でレコーディング。夜な夜なパーティで乱痴気騒ぎをしながらわずか14日間で完成させたという。トラック録音やミックスを殆どせずにヴォーカルとギター以外はほぼ生録に近いものだったらしい。そうした当時のバンドと若気の至りといった勢いというものを感じさせるライブな作品になっている。
管理人は、THRASH DOMINATION ’09 の川崎クラブチッタで、エクソダスのパフォーマンスを目撃している。この年のスラドミではこのデビューアルバム『Bonded by Blood』を史上初めて完全再現するセトリで、M-1. “Bonded by Blood” から M-9. “Strike of the Beast” までプレイしてくれた。ただ当時は Rob Duke がVo.を務めており、どちらかというとハードコア寄りのヴォーカリストということで開催前はちょっと微妙な気分だったのを覚えている(笑) それくらいバーロフと2代目スーザの存在感が濃すぎるので致し方ない面はあるのだけど。
しかし始まってみればそれも杞憂で、M-4. “A Lesson in Violence” あたりの高速ベイエリア・クランチをヘドバンで堪能しながら存分に暴れることができたし、ゲイリー・ホルトは最高でめちゃめちゃいいパフォーマンスだった。HEATHENの出番ではドラムスのトム・ハンティングが飛び入り参加してレインボーの “Kill The King” をやってくれたり、トリを務めたテスタメントもガツガツした煽りをやってくれて、この年のスラドミも忘れられないライブのひとつとなったことは間違いない。
エクソダスは当初このアルバムのタイトルをM-4.タイトルの『A Lesson In Violence』とする予定だったが、依頼したジャケットのアートワークが酷いものだったため、急遽『Bonded By Blood』に変更されることになった。結果的にはそれがクールなジャケットアートとなりバンドロゴともなったので、これは最初のイラストを描いて没になってくれたヒッピーの怪我の功名と云えるのかもしれない。
なおエクソダスは2008年にこのアルバムを再レコーディングして『Let There Be Blood』のタイトルでリリースしている。こちらを聴き比べてみるのもまた一興かと。
Origin : | Ritchmond, California, U.S. ![]() |
Released : | 1985. 4. 25 |
Label : | Torrid / Combat Records |
Producer : | Mark Whitaker, Ken Adams, Todd Gordon |
Studio : | Prairie Sun Studios (San Francisco) |