聖地カーディフが産んだ新世代メタルヒーロー
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ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン Bullet for My Valentine (以下 BFMV)は1998年にウェールズで結成されたカーディフ(Cardiff)の音楽シーンにおいてメロディック・メタルコアを代表するバンドである。
カーディフとはウェールズ南部に位置するウェールズ首府にして最大の都市で、ロンドンから250kmほどの距離にある。カーディフ郊外には質の高い炭鉱があって、産業革命以降その採掘とカーディフ港からの石炭積み出しにより街は飛躍的に発展。仕事を求めるイングランドやアイルランドからの移民が流入して人口が急増した。
そんなカーディフには、1894年創業で世界最古のレコードショップと云われるスピラーズレコード(Spillers Records)があり、’60年代からイギリスのロックシーン、ポップシーンカルチャーに多大な影響を与えてきた発信地でもあった。特に’60年代後半カーディフに出現したバッジー Budgie というハードロックバンドは最も草創期にあたるブリティッシュ・ヘヴィメタルの祖先だとも云われている。このバッジーの影響は、その後のNWOBHM やスラッシュメタルといった多くのメタルシーンが影響を与えており、IRON MAIDEN, Metallica, Megadeth, Van Halen といった多くのバンドが彼等の曲をカヴァーしている。
そんなカーディフの地において’90年代から2000年代にかけて勃興したメタルコアさらにはメロディック・メタルコアのムーブメントの中で頭角を現してきたのがこの BFMV だった。
メロディック・メタルコアとメタルコアはその様式的起源が異なっており、伝統的なメタルコアが80年代後半からハードコアパンクを土壌にスラッシュメタルのギターリフやサウンド要素を音楽的実験として取り入れていったのに対して、メロディック・メタルコアはそれらメタルコアを継承しつつも、さらに北欧を中心としたメロディック・デスメタルの要素を取り入れようとしたもので、主にアメリカのバンドが中心となってその発展に寄与してきた。
2000年代初頭のアメリカで、キルスウィッチ・エンゲイジ Killswhitch Engage や、シャドウズ・フォール Shadows Fall といったバンドが、当時興隆を極めていたイエテボリスタイル(北欧メロディック・デスメタル様式)とは異なる、自らの独自性を誇示できるエクストリームなメタルサウンドを追求した結果、メタルコアのブレイクダウンを多用しながらもメロディアスに唄うパートを織り交ぜるといったメロディック・メタルコアを生み出したと考えられる。
一方の BFMV はウェールズ出身でありながら逆にアメリカからスラッシュメタルの影響を色濃く受けており、アメリカ出自のこうしたメロディック・メタルコアとも一線を画す。ブレイクダウンも使っているものの、より伝統的なヘヴィメタルに寄せたエクストリームなメタルを聴かせようとする姿勢が際だっており、ギターソロなどもきっちりと曲の中に織り込む手法を採用している。
BFMV 前身となるのは Jeff Killed John というバンドで、1998年にマシュー・タック(Vo./Rythm Gt.) Matthew Tuck,マイケル・”パッジ”・パジェット(Lead Gt.) Michael “Padge” Paget,ニック・クランドル(Bass) Nick Crandle,そしてマイケル・”ムース”・トーマス(Drums) Michael “Moose” Thomas らによって結成された。
2002年に2曲入りEP『You/Play with Me』を、2003年には『Don’t Walk Away』という2枚目のEPをリリースしてプロモーションCDとして多くのレコード会社やレーベルに配布。その後、クランドルがバンドを脱退して後任にジェイソン・ジェイムス Jason ”Jay” James(Backing Vo./Bass)が加入し初期ラインアップが完成する。
バンド名を新たに Bullet For My Valentine に改名するとロンドンの独立系レーベル Visible Noise とサイン。2004年11月にセルフタイトルEPをイギリス国内でリリースする。そしてこの5曲入りEPに収録されたナンバーをもとに、2005年秋にデビューアルバムとなる『The Poison』をリリース。その後 Trustkill Records とも提携して彼等のバンド名にちなんだ2006年2月14日にこのアルバムをリリースしてアメリカでもデビューを果たした。
このアルバムは全米ビルボード200で128位を記録。これまでに全世界で160万枚、アメリカでは50万枚を売り上げている。
オープニングのイントロトラックにはチェリストによって構成されるメタルバンド Apocalyptica が起用されており荘厳なチェロの音色とゆったりとしたアルペジオで幕を開けるが、M-2. “Her Voice Residers” に切り替わるや絶叫スクリームとクリーンヴォイスを交互に入れ替えながら曲のテンポも激しく変化させるという展開でアルバムは進行していく。
M-4. “Tears Don’t Fall” はそんな彼等のサウンドが顕著にわかるヒットチューンだ。続くM-3. “4 Words (To Choke Upon)” はどちらかというとメタルコア寄りのナンバーとなっている。
かと思うと、M-5. “Suffocating Under Words Of Sorrow (What Can I Do) “ では、彼等が影響を受けたと語るアイアンメイデンのようなオーセンティックなメタル要素を感じさせる楽曲でタックは全編クリーンヴォイスを唄い、ベースのジェイがスクリームコーラスを入れるという手法でプレイしている。
そして M-8. “Hand Of Blood” ではスラッシーなリックとスクリーモなエモ要素、美しいギターソロを見事に融合させた BFMV らしいメロディック・メタルコアの真骨頂を聴かせてくれる。
当時はそれほど爆発的な反響はなかったデビューアルバムだったが、その後、彼等が2ndそして3rdアルバムと徐々に認知度を高めて広く人気を得るなかで、このアルバムも再評価され後追いでじわじわとセールスを伸ばしていった。数年後、本国イギリスとアメリカではゴールドディスクを、ドイツではプラチナディスクを獲得している。日本ではBMGから日本盤が2005年に発売されている。
20年経過したいま改めて聴いても、彼等の荒削りな若いエナジーの爆発力をたたきつけながら、新たなエクストリーム音楽を追求しようとする非常に綿密な音楽性がバランス良く融合していて、完成度が高い素晴らしい1stアルバムだと感じる。
Origin : | Bridgend, Wales, U.K. |
Released : | 2005. 10. 3 |
Label : | Visible Noise, Trustkill Records, Sony BMG Music Ent. |
Producer : | Colin Richardson |
Studio : | Chapel Studio (Lincolnshire), Nott in Pill Studios (Newport) |