古代アッシリア王が誘う深淵
#0068
ASARHADDON はドイツ中央部に位置するザクセン=アンハルト州とテューリンゲン州出身の、 Christian Kircher(Drums)と Christian Koss (Guitar, Bass)2人によるブラックメタルバンド(ユニット)で、2014年結成以来、一貫して自然や絶望悲しみ憎悪といった感性を歴史的なモチーフをテーマにした作品として発表し続けている。

2人の出身地である、ザクセン=アンハルト州はハルツ山地に抱かれた中世のの街並みや城・歴史遺産が点在し、テューリンゲン州は「ドイツの緑の心臓」とも称される美しい森林が拡がる地帯で、こうした周囲の環境が彼等の紡ぎ出す音楽性や感性に深く関わっているのだろうと想像できる。
彼等の作品は、北欧神話や古代の歴史的テーマ、内面的な闇と神秘主義を織り交ぜ、聴く者を深遠な世界へと誘う。バンド名の ASARHADDON とは古代メソポタミアで勢力を拡大した新アッシリア帝国の王「エサルハドン」(アッシュルバニパルの父)から名付けられており、彼等の作品が持つ歴史的背景を象徴するバンド名となっている。
ASARHADDON のナンバーはいずれも、激烈な高速ギターリフにゆったりと刻むドラム、冷たく刺すようなヴォーカルによるブラックメタルらしい特徴に加え、時にメロディアスで深いリバーブで装飾された物悲しい美しさの要素が強調されていて、その紡ぎ出すサウンドの中に儚い美しさと緊張感が同時に存在している。
彼等の作品には自然崇拝や精神的探求そして人間の内なる葛藤がテーマとして反映され、その壮大かつ荘厳なサウンドスケープは、フランスのAlcestの流れを汲む、現在の深化したアトモスフェリックなブラックメタルを象徴している。
2015年に発表した4曲入りEP “Furstere” からキャリアをスタートさせ、4枚のシングルリリースを経て、2020年に初のフルレングスアルバム “Reysa” を発表。その後も3枚のEPをコンスタントに発表してきており、今回の新譜は2ndアルバムという位置づけになる。
今回はフルレングスアルバムでありながら収録されているのは4曲だけ。 しかしそれぞれが10分を超える大作となっている。
ジャケットアートワークには4羽の鳥の頭蓋骨が飾られており、それぞれが4人の王の出身国を表している。アートワークの写真はバンド初期に重要な役割を果たした地元の森で撮影されたもの。2020年に発表されたバンド初のフルレングスアルバム “Reysa” のサークルに並べられた鳥頭蓋骨モチーフを踏まえたものでバンドキャリア10年間の輪を閉じる象徴となっている。
最初の曲 “Der silberne Mond” は、紀元前858年から紀元前824年までアッシリアに君臨したサルマナサル3世の生涯を歌ったナンバーで4つの頭蓋骨のうち「コウノトリ」を象徴する作品。
M-2. “Im tiefen Wald” は、北ガリアを統治したコミウスの生涯を歌っており「ユーラシアホウロクシギ」がそれにあたる。
M-3. “Ein letzter Frühling” は、我らが日本の大和政権で、AD554年からAD628年まで即位した推古天皇の生涯を歌ったもので「タンチョウ(丹頂鶴)」がその象徴となっており、オフィシャルMVでは彼等の演奏プレイをみることができる。
M-4. “Die roten Vögel” は、18分を超える大作で、紀元1402年から紀元1472年までアステカ帝国に生きたネサワルコヨトルの生涯を語っており「ブラウンイビス」が表現されている。
アルバムのタイトルである “Êra”(古低地フランケン語1:「王冠」)は、4人の王の物語で歴史上の実話に基づいている。まるで歌う絵本の如く遠く古の世界へと誘う作品で、黄金色の砂、深い森、魅惑的な秋の色、そして遥かなる海が瞼に浮かぶようなアトモスフェリックなサウンドが特徴的。
結成10周年を迎えバンドはさらなる荘厳の音色と慟哭の詩の舞踊を追い求める。
- 古低地フランケン語:西ゲルマン語群に属する言語で、現代のオランダ語やフラマン語の祖先と考えられている。この言語は6世紀から12世紀頃にライン川下流域のフランク族によって用いられていた。 ↩︎
Origin : | Saxony-Anhalt/Thuringia, Germany ![]() |
Released : | 2024.10.4 |
Label : | Vendetta Records |
Producer : | – |
Studio : | Unknown |