レニングラード防人哀歌
#0018
イタリアのメロディックデスメタルバンドDARK LUNACY の 3rdアルバム『The Diarist』は重く切なくそして素晴らしい作品だ。
WWII東部戦線におけるレニングラード包囲戦(現在のサンクトペテルブルク)をモチーフにしたコンセプトアルバムとなっている。パワフルなギターリフに悲しく切ないが美しいメロディ、怒りと荘厳さをも感じるグロウルで唄うこの作品は当時高い評価を得た。
約900日にも及んだドイツ軍の激烈な包囲戦の中、街に立て籠もってひたすら生き抜くために抵抗を続けたレニングラードの人たち。多くの犠牲が忌まわしい記憶を残したことは想像に難くないが、家族を守り、街を守るために愛国心を胸に戦い抜き生き抜いた人々は、誇りをもってこの戦いを後生にも語り継いでいくのだろう。
「トロイも陥ち、ローマも陥ちたが、レニングラードは陥ちなかった」と当時の指導者に言わしめたというが、これはイデオロギーの勝利などではなく、ましてや「正義」が勝った訳でもないだろう。ただひたすらに不条理な死を拒んだ人々が「 生きたい」「家族を守りたい」という普遍的な強い信念により勝利したのだと思う。そんな重いテーマをこの作品はコンセプトとしている。
かといって声高に”戦争反対”だの”戦争は悪だ”といった思考停止したようなお題目を唱えているわけではない。
ソングライターでもある Enomys (Gt.) は
「(このCDを聴く時)子供達や家族を守るために戦っているロシア人兵士と並んで泥の中を歩いている姿を想像して欲しい。目を閉じ自分のタイプライターに向かい、ラジオから流れる我々の街の心臓部はまだ動いている、というニュースに耳を傾けた気持ちを思い浮かべて欲しいんだ」 と語った。
(BURRN!誌2007年1月号インタビュー記事より)
アルバムタイトルの M-3.”The Diarist”ではタイプライターの音と悲しいピアノの旋律と共にはじまり、やがて空襲警報が鳴り響き赤ん坊の産声が聞こえてくるなかで野砲の轟音が響きわたるという、インサートトラックがあるが、おそらくその場面を語ったものと思われる。
ここからゆったりとした美しいピアノ旋律と物悲しいオーボエの調べからはいるM-5.”Snowdrifts”の男女ツインヴォーカル(Female Vo. by Amerlia )、そして M-6. “Now is Froever” へと続いていく展開は特に素晴らしい。重く歪んだギターリフに叙情的なメロディが相まって Mike Lunacy (Vo.) の哀切に満ちた咆哮が突き刺さる。疾走するリフは中盤にはいると深くリバーブがかかったベースと共にテンポを落とし美しいギターソロへと展開していく。
こうして安穏と音楽を楽しめる日々に心底感謝している。でもふと立ち止まって、それを享受するために守るべきものは何か、それを脅かすモノは何かということに目を向けて考え、耳をそばだててみることも忘れないようにいたいと思う。
Origin : | Italy |
Released : | 2006. 3. 26 |
Label : | Fuel Records |
Producer : | Enomys, Vittorio Lombardoni |