速いカニ!重いカニ!
#0021
スラッシュメタルがその黄金期を超えて終焉へと向かっていた90年代初頭。そのひとつの到達点と云える名盤『Arise』(1991)を発表したのがブラジル産ベテランバンドのセパルトゥラ(SEPLUTURA)だ。
このバンドがまだカヴァレラ兄弟を中心に率いられていた時代の話で、前作 3rd『Beneath The Remains』でフロリダのデスメタルシーンにおける名伯楽 Scott Burnes をプロデュースに迎え、当時もはや群雄割拠となっていたスラッシュメタルに遅ればせながら殴り込みをかけてくる。そして4作目となるこの『Arise』で早くも、最高にして最後となるスラッシュメタルアルバムを世に送り出すことになる。

しかし彼等も当時の時代の流れに抗うことはなく、5th『Chaos A.D.』(1993)や6枚目の『Roots』では、ブラジルの伝統的音楽DNAを色濃くしつつヘヴィネスなグルーヴメタルへと変遷していく。実際のところ、このバンドの最高傑作アルバムは?という問いに対して、そのメタルヘッズがスラッシュメタル時代からのファンなのかパンテラ以降のファンかによって選定されるアルバムが変わってくるだろう。

ただ自分にとっては、この4thアルバム『Arise』こそがまさに至高であり、スラッシュメタル全体を通しても、尤なる金字塔のひとつだと思っている。
不気味なダクトに響く機械音のようなSEから幕を開ける。M-1. タイトル曲 ”Arise” から全編にわたってマックス(G/Vo.)とイゴール(Ds.)の兄弟が吐き出すリフとリズムが恐ろしいスピードで繰り出されてくる。まるで鋭利なレイピアの切っ先のように聴き手に迫ってくるようだ。その一方で、スラッシュメタル独特のスタスタとしたスネアドラムの軽快さとせめぎ合うようなキックとベース音の重さを感じさせる。だがこうしたパートの要素どれもが激烈な速さに全て飲み込まれていくような感覚になる。また全てのパートがきっちりとサウンドプロダクションされていることにも唸らされる。
速くなければスラッシュメタルじゃない! まさにその教典のようなアルバムなのだ。
OBITUARY や あの MEAT LOAF のアートワークでも知られる SFイラストレータ Michael Whelan が手がけた、カニのお化けのような不気味で禍々しいジャケットもスラッシュメタルのアルバムらしさを存分に発揮している。彼等のアルバムジャケットのほとんどを同じイラストレーターが手がけているのだが、その音楽性の変遷に従って、イラストのモチーフやタッチまでもがキチンと描き分けられているように感じられ、そういったところにこのイラストレーターのプロ意識を感じさせる。

激烈なスラッシュ・アルバムを世に放ったカヴァレラ兄弟も、多くのスラッシュメタルバンドと同じく、その時代の波が去るとともにブラジル音楽に回帰しつつハードコアとのミクスチャを推し進めていき、やがて二人ともがバンドを去ることになる。バンドそのものもその39年の長いキャリアの中で何度かラインナップを変更しておりマックスとイゴールのカヴァレラ兄弟はそれぞれ1996年と2006年に脱退している。
現在のセパルトゥラ作品はきちんと聴いたことがないので自分には何も語ることができない。
脱退当時は兄弟の確執が多くあったことがその後に明らかになるが、2007年には兄弟相見えて新たなプロジェクト CAVALERA CONSPIRACY を立ち上げている。このプロジェクトは、彼等が培ってきた様々な音楽的要素を感じさせつつ、初期 SEPLUTURA に近いブラックメタルあるいはスラッシュなメタルを聴かせてくれており、2023年にも新作アルバムを発表するなど、精力的に活動を続けてくれている。
しかし、まさにあの時代の稜線に彼等が立っていたからこそ生まれたのがアルバムであり、その後 2000年代に入ってスラッシュメタル再興を感じさせる新たな時代に登場してきた多くの若いスラッシャーにとっても、この作品がマスターピースとなっていたことは間違いない。
Origin : | Brazil ![]() |
Released : | 1991. 3. 25 |
Label : | Roadrunner Records |
Producer : | Seplutura, Scott Burns |
Studio : | Morrisound Recording (Tampa, Florida, United States) |