あの熱いマイアミの夜をもう一度
#0022
198o年代を代表するアメリカの人気テレビシリーズで刑事ドラマと云えば、やはりこの『マイアミ・バイス』だろう。マイケル・マン製作でNBCにおいて1984年から86年にシーズン5までが放映された。日本では遅れて1989年秋から88年まで放映されたが本国ほどには視聴率がとれずシーズン4で打ち切りとなっている。しかしこのドラマシリーズはそれまでの刑事ドラマとは趣を大きく異にしていた。日本においても当時まだ少数派であった海外ドラマ大好き勢にもかなり評判は高かったと記憶している。
イケメンの白人警察官(Don Johnson)と黒人警察官(Philip Michael Thomas)の相棒役二人の主人公が、高級ブランドの粋でカラフルなスーツを着こなし、スーパーカーに乗り込んでマイアミの夜の中で派手なカーチェイスの大立ち回りするといった趣向が基本だったが、主人公たちが自らの職責と犯罪が絶えない現実への矛盾に悩んだり、すれ違う夫婦の姿がクローズアップされるなどアメリカ社会の側面を投影する社会派テイストもバランス良く丁寧に描かれていた良質のドラマであった。
潜入捜査官といった設定や、パートナーと捜査する”相棒”の二人が主人公といった設定も、このドラマで有名になったプロットではなかろうか。
そしてなんと云っても主役のドン・ジョンソンが格好良く、バブル当時の若者にとって彼のスーツの着こなしには大いに憧れだったのだと思われる。自分も学生時代がまさにデザイナーズブランドブームの真っ只中で、Tシャツの上にスーツを羽織るというスタイルも多かったが、さすがにドン・ジョンソンほど派手なパステルカラーの高級スーツを着こなすという訳にはいかず、どちらかと云うと「前略、道の上より」の一世風靡セピアスタイルになっていたような(笑)
そんな全てが派手でゴージャスなマイアミを舞台にしたアクションドラマということもあってテレビドラマシリーズでありながら、そのサウンドトラック盤も非常に豪華だった。管理人はその第二弾アルバムとなるサントラ盤を持っている。
1980年代ポップスやロックのヒット曲を数多く採用していたのだが、チェコスロヴァキア出身のキーボード奏者ヤン・ハマーのシンセサイザーを全面に押し出したインストゥルメンタルのテーマ曲が、当時とても革新的で、これがサウンドトラックのインストゥルメンタルとしては異例の大ヒットとなった。
また『マイアミ・バイス』では1エピソードにつき1万ドル以上を費やして様々なアーティストに書き下ろしさせたオリジナル曲をレコーディングするという手法をとっていて、これも従来のドラマ挿入歌の製作とは全く異なっていたと云われている。
ドラマの大ヒットも相まって、このやり方が逆に 『マイアミ・バイス』のなかで曲が流れることでレコード会社やアーティストにとってステータスや追い風となってヒット曲が生まれるという構図も見られるようになっていった。
サウンドトラックアルバムが大ヒットを記録したことで2枚目のアルバムを出すというもまた異例だった。この2枚目が自分には大のお気に入りだったのはドン・ジョンソン演じるソニー・クロケット刑事のテーマ(Side-AのM-5.)が収録されていたから。この曲でもヤン・ハマーの美しく印象的なシンセサイザーサウンドを聴くことができる。
この第二弾となるアルバムにも多様なアーティストによる楽曲が収録されている。中でも驚くのはセックスピストルズのギタリストだったスティーヴ・ジョーンズによる M-1. “Mercy” や、同じくロンドンパンクの旗手 The Dammed による M-9. ”In Dulce Decorum”だ。
いずれもロンドンパンク時代の面影はなくニューウェーブ寄りの商業ポップスとしてなんとか時流に乗り遅れず生き残ろうとする工夫が見られる。かつての面影がないというだけで先入観なしに聴いてみれば楽曲自体それほど悪いものではない。
他にも『マイアミ・バイス』には数々のヒット曲を送り出していたフィル・コリンズをはじめ、アンディ・テイラー(ex. Duran Duran)やジャクソン・ブラウン,ロキシー・ミュージックといった面々が名を連ねている。
しかしながらこのアルバムの聴き所はやはり3曲のヤン・ハマー楽曲だろう。それくらい当時においては、これらシンセサイザーによるインストゥルメンタル楽曲の登場は刺激的だったのだ。
また現代において、80年代シンセサウンドにインスパイアされたジャンルのことを”Synthewave”と呼ぶ流れが生まれているが、このシンセウェーブのビジュアルイメージがまさに『マイアミ・バイス』の世界観そのものを色濃く投影したものになっており、派手なネオン色、スーパーカー、パームツリーなどがそれらのアイコンとしてよく動画作品や配信などで使われている。
若い音楽ファンにはこれらが『マイアミ・バイス』発祥によるインフルエンスやリスペクトであることを知らない人も多くいるだろう。
いま望まれるのはこの大ヒットドラマがいずれかの大手映像サービスによって再び配信されることだが、いまのところ多くの配信サービスをみてもこのタイトルが見当たらないのは残念な限りだ。権利関係の問題や何かしら配信にハードルがあるのだろうが、是非それらを解消してもらって、あのマイアミの熱い夜の物語が再び鑑賞できるようになることを、切に願っている。
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