大ヒット曲の陰に隠れたファシズムへの警鐘
#0025
人気絶頂のなかで突然の解散。80年代において伝説的ロックバンドとなったBOØWYのフロントマンであった氷室京介が、作詞に松井五郎,編曲とプロデュースに佐久間正英という万全の体制をひいて製作したソロアーティスト第3弾アルバムがこの『NEO FASCIO』だった。
本作はファシズムの持つ煽動的拡散力への純粋な魅惑とそこに内在する危険性について考えされることをテーマに「ファイズム」というキーワードがコンセプトになっている。前作までの2作品『Angel』『DEAR ALGERNON』が、どちらかというと BOØWY 時代の延長線にあったことを考えると、本作では明らかに異なった音楽性と進化が見られ、ソロシンガー氷室京介として新たな一歩を踏み出した作品となっている。
本人もその重いテーマとコンセプトで製作された楽曲群を前にして、必ずしもヒットするようなアルバムではないだろうと商業的なリスクがあることを危惧していたようだ。しかし先行シングルとしてカットされたカネボウ化粧品のイメージソングに採用されたスローバラード ”Misty” や、後に氷室ソロ時代の代表曲ともなった ”Summer Game” がキラーチューンとなってセールスを牽引。結果的にはアルバムも54.6万枚を売り上げオリコンチャート1位を記録するなど大ヒットとなった。
しかし、この多くの音楽ファンにも耳馴染みとなった大ヒットシングル ”Summer Game” も、このアルバムの中ではかなり異質な曲となっており、氷室自身アルバムのどこに配置するべきか悩んでいたようだ。結果的にはアルバム中盤M-5.に配置されており、スティールドラムを使いカリプソ(カリブのカーニバル音楽)を現代風にアレンジした M-6. ”Rhapsody In Red” 、同じくシングルカットされた M-7. “Misty” と、やはりアルバムのコンセプトとはやや乖離した3曲が並ぶことになった。これらはシングルカットされたヒット曲でありながらこのアルバムにとっては、あたかも「箸休め」のような形で配置されているのだ。
裏を返せばアルバム前半と後半にはこれらとは相反するようにかなり重い楽曲が並んでいることになる。
しかしこれは氷室がヒットメーカーとしての期待にきっちり応える一方で、自らに内在する問題意識を音楽で表現するべくこのアルバムに挑戦したという証左でもあり、かなり意欲的な作品だったことが伺える。
暗く重く聴かせながらもロックナンバーとして多彩でタイトな楽曲群が並んでいて聴き所も多いが、とりわけ M-4. “CHARISMA” が凄い。
アルバムのプロデュースとアレンジ全般を担当した佐久間正英が連れてきたドラマーそうる透のプレイが特に素晴らしく複雑なリズム構成のナンバーとなっている。明快な8ビートで人気を博した BOØWY 時代とは明らかに異なるビートで、佐久間のギタープレイもセンセーショナルなサウンドメイクで練られたリフを多用した多重録音トラックで構成されていて、幻想的な雰囲気を醸し出しながらも心地よく楽曲を盛り上げている。
ヒットシングルとして “Summer Game” を音楽配信サービスで聴く機会は多いと思うが、その裏には、氷室京介=元BOØWYヴォーカリストのヒット曲、というラベルだけでは知り得ない、アルバムという形になってはじめて成立するロック表現やアーティストの苦渋みたいなものに触れることができる作品になっている。
しかし残念ながら現在は廃盤になっているようだ。逆に中古CDなら格安で手に入るようなのどこかで見かけたら是非その手にしてみて欲しい1枚。
Origin : | Takasaki, Gumma, Japan |
Released : | 1989. 9. 27 |
Label : | Toshiba EMI, イーストワールド |
Producer : | 佐久間正英 |
Studio : | サウンドスカイスタジオ,フリーダムスタジオ,一口坂スタジオ |