蠍団マーキークラブ降臨
#0028
ジャーマンメタルの礎を築いたドイツを代表するハードロックバンド SCORPIONS がRCAからリリースした3rdアルバムがこの『In Trance』で、プロデューサーのディーター・ディヤークス(Dieter Dierks)との初仕事がこのアルバムからだった。
1973年ディヤークスがエッセンのスポーツホールで行われていたギグに出かけた時、全くの無名バンドであったスコーピオンズを初めて目撃することになる。そしてこのミュージシャンたちが、観客が殆どいない会場だったにも関わらず、とてもプロフェッショナルなプレイをしている姿に感銘を受けたという。バンドは当初RCAにアルバムの製作プロデュースを依頼しようとしていたが、ディークスは自らの会社とサインしてくれるよう交渉。そして彼がプロデュースしたこの『In Trance』はバンドにこれまでの3倍のセールスをもたらすことになった。バンドとディヤークスはその後、1988年の10thアルバム『Savage Amusement』で袂を分かつまで8枚のスタジオアルバムを共に製作することになる。
WWIIで激しい戦火に晒された(当時の)西ドイツ要害都市ハノーファーで結成されたスコーピオンズは、このアルバムを引っさげて初のイギリス公演をロンドンのマーキークラブで開催する。このイギリスでの公演成功を足がかりに彼等はやがて世界に向かって打って出ることになる。
ちなみにロンドンのマーキークラブ(Marquee Club London)は、80年代前半に勃興した NWOBHM のまさに舞台となったハコで、スコーピオンズがイギリスに上陸した5年後の1980年に IRON MAIDEN が伝説となった一連のギグを繰り返し、同じ頃に DEF LEPPARD, ANGEL WITCH, DIAMOND HEAD, PRAYING MANTIS らがひしめき合うようにここから生まれ育ち、NWOBHM を一大ムーブメントに押し上げていった。それから遅れることさらに約5年。メタリカが初めてイギリスでの公演を1984年に開催したのもこのハコだった。
リードギターのウルリッヒ・ロート(Ulrich Roth1)在籍時代の代表作としては次作『Virgin Killer』を挙げるファンが多いと思うが、自分はこの『In Trance』が圧倒的に好きなアルバムだ。
確かに次作はアルバムタイトルの “Virgin Killer” や “Pictured Life”,”Catch Your Train” といったキラーチューンが素晴らしいが、アルバム全編を通してダークで退廃的な雰囲気を纏いながら、様々な苦悩や逆に達観したような人生観を唄う楽曲が多く収録されている不思議なアルバムがこの『In Trance』なのだ。その重厚なギタープレイも相まって何度も聴きたくなる妖しい魅力に溢れている。
HMV&BOOKS online SCORPIONS – In Trance地の底から這い上がるようなダウンアーミングからはじまり、ウルリッヒ・ロートが美しい駆け上がりリックを繰り出す M-1. “Dark Lady” はフランシス・ブッフホルツ(Francis Buchholz)のベースプレイも素晴らしい。
アルバムタイトル M-2. “In Trance” と続く M-3. ”Life’s Like a River”(人生は川の如し)は共に美しい高音で歌い上げられるバラードナンバーで、クラウス・マイネ(Klaus Meine)が希代のロックバラードの名手であることを知らしめる2曲になっている。
中盤最大の聴き所である M-6. “Robot Man” は、怪しいミュートカッティングのスクラッチから始まり、ルドルフ・シェンカー(Rudolf Schenker)が独特のサウンドメイクでしつこくリフを刻み続け、ウルリッヒ・ロートが激しいアーミングプレイを被せてくる激しくもフックの効いたナンバーとなっている。
そしてアルバムは静かなインストゥルメンタルでゆっくりとクールダウンするように幕を下ろす。
しかしこのアルバムの隠れた功労者は先に紹介した ディーター・ディヤークスで、とにかく全ての楽曲トラックが卓越したミックスでエンジニアリングされている。とても50年以上前に録音されたテープとは思えない素晴らしいサウンドだ。
是非そういった点にも着目して頂き、少しでも良い再生環境で音量ツマミを最大限まで上げて聴いてみて欲しい逸品。
なお、このアルバムのジャケットデザインは当初、モデルの完全に露出したバストがギターに向かって垂れ下がっているというものだったが(冒頭のバイナル写真)、その後のリリースでは胸が見えないよう黒く塗りつぶされる検閲を受けた。これはスコーピオンズのアルバムジャケットが検閲された最初の作品でもある。
Origin : | Hanover, Germany |
Released : | 1975. 9 .17 |
Label : | RCA Records |
Producer : | Dieter Dierks |
Studio : | Dierks Studio |
- 現在はウリ・ジョン・ロート(Uli Jon Roth)と呼称 ↩︎