オールナイトニッポン!からFusionの夜明け
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ハーブ・アルパート(HERB ALPERT)はL.A.出身のトランペット奏者で、作曲家・アレンジャー・プロデューサーそしてA&Mレコード共同創始者の一人である。
だが日本人には、あのニッポン放送の深夜ラジオ「オールナイトニッポン」で有名なテーマ曲を作曲・演奏している人だよと云った方が伝わるのかもしれない。少なくとも管理人が中学生の頃(1970年代の半ば)からずっと代わらぬテーマ曲なので、世代を超えて一度は耳にしたことがあるのではないだろうか?
あの透明感のある安定したトランペットをプレイしていたのがハーブ・アルパートで、60年代はハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラス(Herb Alpert & the Tijuana Brass)というバンドを率いて活動していた。このバンド時代は、1967年の映画『007カジノロワイヤル』(ショーン・コネリー主演の正統シリーズのそれではなくピーター・セラーズ主演のコメディ版)のタイトルカット曲を吹き込んだり、自らのヴォーカルを録った “This Guy’s in Love With You” がスマッシュヒットしたりした。
しかし60年代終わりに個人的な問題を抱えていた彼はこのバンドを解散。このあとはトランペットを置いて音楽製作の現場から離れる時期もあった。
70年代後半になって甥っ子のランディとアンディ・アーマー(Andy Armer)が共同でティファナ・ブラス時代の曲をファンクあるいはディスコミュージックとしてアレンジしたものをプレイするよう彼に奨めたことから、自身のインストゥルメンタル曲としてこのアルバム何曲かの製作を開始する。
これがきっかけとなってハーブ・アルパート自身のソロプロジェクト用オリジナル曲として仕上げられたのがタイトル曲 “Rise” だった。当初はアップテンポのダンスナンバーだったそうだが、レコーディング中にドラムを担当したスティーブ・シェーファー(Steve Schaeffer)がテンポを100bpmまで落としてみようと提案したものが採用された。
結果としてこの『Rise』はビルボードHOT100で全米1位を獲得する大ヒットとなり、グラミー賞でも 最優秀POPインストゥルメンタル・パフォーマンス賞と最優秀インストルメンタル作曲賞を受賞する。

管理人がこのアルバム『Rise』やハーブ・アルパートに出会うきっかけとなったのは、中学時代の友人Fのおかげだった。当時すでにハードロックやメタル三昧だった自分に「そんなうるさい音楽ばっかりよう聴いてるなぁ….オレはこういうのが好きやねん」と云って教えてくれたのが、このハーブ・アルパートだった。
思えばこの友人とは多くの趣味で共通点があるというより不思議とウマが合うといった仲で、放課後ヒマな時間を持て余しては音楽をカセットテープで聴きながらあれこれと四方山話に興じていた。もともと音楽ジャンルにこだわらない自分もすぐにこの教えてもらったアーティストの虜になったし、おそらくフュージョンという音楽ジャンルに触れたのも、この時がきっかけだったのではないだろうか。
またこの “Rise” は多くのHip-Hop系アーティストからこの曲をサンプリングしたいという要望が殺到したらしい。だがランディ・アルパートはそのほとんどを断っていたそうだ。ただノトーリアス B.I.G.(The Notorious B.I.G.)がRAPするデモテープを聴いたときだけはとても気に入ったようで、彼にはすぐにサンプリングの許諾を出したらしい。
そしてそれはパメラ・ロング(Pamela Long)をヴォーカルに起用した “Hypnotize” というタイトルでリリースされ、こちらも全米No.1ヒットとなる。ただ彼自身はリリースの1週間後に車上荒らしに遭って銃撃され非業の死を遂げてしまう。
アルバムの幕開けを飾る M-1.”1980” はそのタイトルが表すように、モスクワで開催された夏季オリンピックのテーマ曲をNBC放送がハープ・アルバートに作曲を依頼した番組テーマ曲であった。ところがこの年アメリカはモスクワでのオリンピックをボイコットしたため、この曲が放送で流されることはなくなってしまった。
また M-5. “Aranjuez (Mon Amor)” は、ポール・モーリア楽団の演奏や岸洋子が歌唱して有名になった “恋の(あるいは、我が心の)アランフェス” でも知られた曲なのだが、彼はこの曲をかなりテンポアップしたうえでフュージョン曲にアレンジしつつカルメンを思わせるパートを織り交ぜて新しいナンバーとして仕立て上げている。もともとはスペインのギタークラシック曲『アランフェス協奏曲』を起源としてポピュラーソングとして広く唄われるようになった名曲なので、そのメロディは聴いたことがある方も多いのではないだろうか。
管理人が “Rise” 以外でもっとも気に入っている曲は、アルバム後半の M-8. “Streat Life” でその印象的なメインテーマとゆったりとしたファンキーなベースがとても心地良い。
ハーブ・アルパートは、このアルバム以降、次々と優れたインストルメンタル作品を世に送り出し、80年代において最も知られたフュージョンプレイヤーのひとりとなった。その後のスムースジャズへと繋がるジャズ、クロスオーバーの発展に大きく貢献した人物だったと思う。そしてこのアルバムはその大きな一歩となった作品だったのだろう。
Origin : | Los Angeles, California,U.S. ![]() |
Released : | 1979. 7. 20 |
Label : | A&M Records |
Producer : | Herb Alpert, Randy Alpert |
Studio : | A&M Studios |