パンク野郎とシンセギター奏者の邂逅
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ビリー・アイドルはロンドン出身で70年代はジェネーレーションX(Generation X)というバンドで、比較的ブリティッシュポップに寄せたパンクロックをプレイしていた。テレビシリーズで流された “Your Generation” をきっかけにクリサリスレコードと契約。メンバー全員イケメンというビジュアルも功を奏してか他のパンクバンドとは少し異なる存在としてアイドル的人気を博し6枚のシングルを全英チャートに送り込んでいる。しかし最後はメンバー間で音楽的指向の違いが浮き彫りとなり、最後はバンド名を Gen X に改名するなど存続を試みるが、バンドの元マネージャーがビリーにロンドンからニューヨークへの活動拠点を移すことを勧めたことで、バンド創始者のひとりトニー・ジェイムス(Tony James)が脱退。結局3枚のスタジオアルバムを残してバンドは解散する。
なおジェイムスはその後、ロカビリーやサイバーパンクを取り込んだジグジグスパトニック(Sigue Sigue Sputnik)を結成。1980年代後半にはシングルとアルバムがトップ10入りを果たして全英チャートに返り咲いており、その後もゴシックロックの The Sister of Mercy でプレイするなど現在まで活動を続けている。2023年にはビリーと共に、元 Sex Pistols のスティーブ・ジョーンズやポール・クックとコラボした「Generation Sex」でフェスに参加。観客を沸かせている。
さて単身ニューヨークに渡ったビリー・アイドルは、そこでソロ時代の盟友となるスティーヴ・スティーヴンス(Steve Stevens)と出会うことになる。スティーブンスはギタープレイヤーとしてだけでなく作曲とアレンジ面で彼を支えることになる。ビリー・アイドルのソロでの大成功は彼の存在無しには語れないだろう。パンクイメージで独特な歌い回しで唄うビリーとシンセドラムを多用したトラックにスティーブンスのグラム風のハードなギターやまだ殆ど使用する者が少なかったシンセギターを使ったプログレッシブなサウンドはMTVを通じて瞬く間にヒットチャートを駆け上っていった。
HMV&BOOKS online BILLY IDOL – Rebel YellRoland公式チャネルではギターシンセGR-55をデモする動画でビリー・アイドル時代に彼が手にしたGR-707とのエピソードを紹介しているが、MTVでこのギターを手にプレイするシーンをMVに撮るのがエンドース条件だったようで、当時のMTVの影響力を象徴するエピソードとしてとても興味深い。
Rolandギターシンセとのエピソードを語るSteve Stevensこのアルバム『Rebell Yell』はビリーとスティーヴによる2枚目のスタジオアルバムで、前作に引き続きジョルジオ・モロダー(Giorgio Moroder)との仕事で知られるキース・フォージー(Keith Forsey)がプロデュースを務めている。ニューヨークの Electric Lady Studio でレコーディングされ、当初はフォージーの手による LinnDrum と Roland の TR-808 の打ち込みだけでドラムトラックを製作する方針だったようだ。そういったチャレンジもこのアルバムの特異性と魅力になっている。ただ最終的には何曲かでトミー・プライス(ex. Joan Jett & the Blackhearts; Blue Öyster Cult )らセッションメンバーの手によってドラムも叩いてもらってアルバムは仕上げられている。
フォージーとスティーヴだけでなくビリー自身がかなりエレクトロポップへ強い興味があったことがこのような試行になったと思われる。実際このアルバムの最大の魅力は当時としては目新しいこれらのミクスチャーにあったのは間違いない。
リードシングルとなったタイトル曲 M-1. “Rebel Yell” はイントロからシンセサイザーとギターのミックスが絶妙で、そこにビリーのニヒルでアグレッシブな歌唱が乗ってくると一気にカッコイイ現代的なロックナンバーに昇華する。
またシンセサイザーとコーラスが美しいスローバラード M-3. “Eyes Without A Face” や、ギターシンセにより退廃的で妖しい魅力を放つスローテンポのナンバー M-5. “Flesh for Fantasy” などビリーにとって新機軸となるシングルでもヒットが生まれている。
なお先のビデオで語られていた Rolandとの約束で、シンセギターGR-707をちゃんと登場させてMTVにオンエアさせたのが、この “Flesh for Fantasy” のビデオとなっている(笑)
実際管理人も初めてこのビデオをMTVで観たときに、なんやこのギター?!となったので、メーカーとしては抜群のプロモーション効果があったのでは?
こうしてハードロックとニューウェーブ、そしてパンクロックがミクスチャーするという新しいアプローチを魅せたこのアルバムはハードロックそしてポップファンの双方に受け入れられ、ビルボードで最高位6位まで上昇。ダブルプラチナムを獲得した。いま聴いてもサウンド面でとてもユニークな作品だ。
Origin : | London, England, UK NYC, US |
Released : | 1983 . 11. 10 |
Label : | Chrysalis Records |
Producer : | Keith Forsey |
Studio : | Electric Lady, RPM, Media Sound (NYC, US) |