80年代ヘアメタルの狂宴
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ラット(Ratt)は日本ではLAメタルバンドの代表格として同時代に活躍したモトリー・クルー(Mötley Crüe)と並び称されることが多い。本国ではLAメタルという呼び方はないため、(American) Gram Metal あるいは Hair Metal や Pop Metal と称されてきた。
中心メンバーでリードヴォーカルのスティーヴン・パーシー(Stephen Pearcy)は幾つかのバンドキャリアを変遷したあと、ミッキー・ラット(Mickey Ratt)という前身となるバンドを1977年にサンディエゴで結成する。
パーシーは、LAメタルの主要バンドが多く出演したことで有名なクラブ「The Whisky a Go Go」で、まだ当時ローカル・バンドだったヴァン・ヘイレン(Van Halen)のギグを観たことをきっかけに、自らのバンド活動拠点をサンディエゴからL.A.に移そうと決意。移転後の1981年にバンド名をラットに改名している。
ギタリストの一人であるロビン・クロスビー(Robbin Crosby)らが加入して、デビュー当時のオリジナルラインナップが固まったのは1983年頃のことだった。
Mickey Ratt 時代には、のちに Ozzy Osborne とプレイするジェイク・E・リー(Jake E Lee)もメンバーとして参加しており、もう一人のギタリストとなるウォーレン・デ・マルティーニ(Warren DeMartini)は、ジェイクがラフ・カット(Rough Cut)加入のためラットを脱退する際に代役として紹介され、そのまま正式メンバーとなっている。
ジェイクとデマルティーニとはバンドのレパートリーを引き継ぐため一時同居してギタープレイに専念していた時期があり、そのことが双方のプレイスタイルにそれぞれ影響があったと云われている。
「The Troubadour」「The Roxy」「The Whisky a Go Go」といったハリウッド西部を中心とした人気クラブでギグを重ねるうちにラットは地元で多くのファンを獲得していく。1983年にはセルフ・タイトルの6曲入りEP『Ratt』をセルフレーベルでインディーズ発売して20万枚をセールスするまでになっていた。
そしてついに 1984年アトランティック・レコードとの契約を獲得してデビューアルバム『Out of the Cellar』(邦題:情欲の炎)をリリースする。
HMV&BOOKS online RATT – Out of the Cellarこのアルバムは全米で300万枚以上を売り上げトリプル・プラチナムを獲得。アルバムチャートのビルボード200でも最高7位にまで登り詰めてバンドは一気にスターダムにのし上がった。その後ラットは1992年2月に解散するまで1980年代に4枚の連続プラチナアルバムを輩出。80年代で最も商業的に成功した人気メタルバンドのひとつとなり、彼等の音楽スタイルは ”Ratt’n’Roll”とさえ呼ばれるなど、ひとつの時代を象徴していた。
いきなりスターダムに踊り出したラットが周囲の大きな期待の中で1985年にリリースした2ndアルバムがこの『Invation of Your Pryvacy』で、荒削りさも感じた1stアルバムからさらに洗練された、LAメタルらしい華やかなナンバーが並ぶ作品となった。そしてこのアルバムでも前作に続いてビルボード200で最高7位を記録するセールスとなる。
HMV&BOOKS online RATT – Invasion of Your Privacyこちらのジャケットカバーには当時のプレイメイト(PLAYBOY誌のカバーガール)モデルのマリアンヌ・グラヴァット(Marianne Gravatte)を起用しており、シングルカットされた M-3. ”Lay It Down” のMVにも出演している。
デビューアルバムのジャケットモデルがクロスビー(Gt.)のガールフレンドだったことを考えると、当時のバンドが如何にイケイケ状態だったかを伺い知ることが出来る(笑)
なおこのMVでも見ることができるが、デマルティーニは当時シャーベルのギターを愛用していたことでギターファンに一気にそのメーカーの知名度を広げるきっかけになったと思う。最近で有名なのは蛇皮を全面に施した彼のシグネチャーモデルだろう。なお創始者のウェイン・シャーベルがシャーベル社を離れて高級ハンドメイドメーカーとしてウェイン(Wayne)を設立したあともデマルティーニは彼のギターを好んで使用している。
またもう一人のギタリストであるクロスビーがこのMVで使用しているのが、ジャクソン社のフライングVシェイプ King V で、あのメガデス(Megadeth)のデイヴ・ムスティン(Dave Mustain)が愛用していることで知られるモデルだが、もともとこのモデルはこのクロスビーのためにジャクソン社が製作したシグネチャーモデルだった。
この二人が織りなすツインギターのプレイと共同で作曲した数々の楽曲がバンドのキャラクターとはまったことも相まってラットは多くのヒット曲を生み出す事になる。
このアルバムからは M-1. ”You’re in Love” がシングルカットされており、そのMVでは名作映画やアニメのラブシーンがインサートクリップとして使われている。クロスビーが女性観客からステージに投げられた下着をキャッチするシーンも観られ、とにかく派手に騒ぎまくっていたあの80年代当時の狂騒ぶりと盛り上がりを思い起こさせるビデオになっている。
ちなみに当時のCDブックレットを改めて見ると、バンドのマネージメントやブッキングスタッフだけでなく、セキュリティボディガードやツアーのロードクルーテックの名前までクレジットされている。彼等裏方スタッフの日頃の働きに対する感謝を込めてのことだと思うが、サブスク配信だけで音楽を聴いていると、こういったバンドが発信する作品のクレジットなど詳細を見る機会が少なくなっているのはやはり寂しいものだ。
こういった所もあって、いまだ当時のCDを求めるコレクターがいる理由もよく分かる気がする。
Origin : | Los Angeles, California, U.S. |
Released : | 1985. 5. 30 |
Label : | Atlantic Records |
Producer : | Beau Hill |
Studio : | Rumbo Recorders (LA), Atlantic Studios (NYC) |