まだ見ぬ伝説のメタルアイコン
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デンマーク出身のキング・ダイアモンド(Vo.)がブラック・メタルの祖とも云われるマーシーフル・フェイト(Mercyful Fate)で2枚のアルバムを残したあとこれを脱退。自らの名を冠した新バンドとしてキング・ダイアモンド(King Diamond)を結成したのが1985年のことだった。
新バンド結成当時は Mercyful Fate から帯同した、Gt. マイケル・デナー(Michael Denner),Bass ティミ・ハンセン(Timi Hansen)に、長くキングの盟友となる Gt. アンディ・ラ・ロック(Andy LaRocque)と、後にモーターヘッドやスコーピオンズにドラマーとして加入する若き日のミッキー・ディ(Mikkey Dey)というラインナップでの始動だった。
後年メタリカが Mercyful Fate をカバーするなど、キング・ダイアモンド個人は後のメタル界においてカリスマとして敬愛されており、現在でも欧州のメタルフェスではヘッドライナーを務めるほどの存在となっているだが、この King Diamond を結成した頃からも彼のファルセット(裏声)を駆使した恐怖と不快感を増幅させる独特の歌唱法は健在で、それに加えて新バンドではGt.アンディ・ラ・ロックのエキゾチックなスケールにネオクラシカルな要素を取り入れた特徴的なプレイスタイルがはまり、その独特のプレイスタイルが確立した時期でもあった。Mercyful Fate 時代よりもさらにパワーアップした感がある。
そんな King Diamond が2枚目のスタジオアルバムとして発表したのが、この傑作コンセプトアルバム『アビゲイル(Abigail)』だ。
オカルトかつホラーを掲げたテーマを劇作風にパフォーマンスする手法のはこれまでもキングが得意としてきた手法であったが、この作品では1枚のアルバムを通して恐怖の物語を展開していく。

(以下ネタバレ注意!ストーリーのあらすじを紹介)
その物語とは、1845年にジョナサン・ラフィーが妻ミリアム・ナティアスを伴って先祖代々からの屋敷に移り住んでくるところからはじまる。黒装束を纏った7人の騎士達が現れ、あの屋敷には恐ろしい過去がありその呪いが待ち受けているから引き返すよう警告するが、その警告に耳を貸さなかったため2人は恐ろしい厄災に見舞われることになる。
恐ろしい過去とは 1777年7月7日にかつてジョナサンの先祖にあたる伯爵が、不義の子を身ごもった夫人を怒りのあまり突き落として殺してしまい死産となった子に「アビゲイル」という名を付けミイラとして地下室に密かに埋葬したというのだ。やがて2人の周りには次々と不審な怪現象が起こり、その予兆もなかったミリアムが突然懐妊する。
妻ミリアムにアビゲイルが憑依していることに気がついた夫ジョナサンは司祭に呪いを祓ってもらおうとするが、アビゲイルに操られたミリアムに突き落とされて命を落とす。ミリアムも急速に成長した胎児を出産するとすぐに亡くなってしまう。
冒頭の7人の騎士が屋敷を訪れた時、赤子として生まれ変わったアビゲイルの恐ろしい姿を目撃するが、彼女を森の中に隠された礼拝堂に連れ去り、7本の銀の棘に串刺しにして埋葬して呪いを封印する。
といった、身の毛もよだつ物語になっている。
オカルトホラーのストーリーとして決して目新しいものではないが、その物語の世界観を見事に音楽としてコンセプトアルバム作品となるよう昇華しており、妖しく美しいツインギターのリフと、キングの耳をつんざくようなファルセットと濁声を織り交ぜて唄う歌唱、そして恐怖感を高めるミッキー・ディの存在感あるドラミングにより、キング・ダイアモンドというバンドがこの物語の完璧なストーリーテラ-となっている。
緻密なストーリーを感じさせるが、それを抜きにしてメタルアルバムとして素晴らしいプレイが随所に聴くことができる1枚でありメタル史における必聴盤とも云える名盤だ。管理人はイントロから加速してキングの中低域の濁声と超高音ファルセットを交互に唄い分ける M-2. ”Arrival” 、とにかくサビのメロディが印象的なアルバムタイトル M-8. ”Abigail”、そして最後を飾る M-9. ”Black Horsemen” あたりがお気に入りだ。
M-4. ”The Family Ghost” ではMVも製作されいている。
それ故、このアルバムはヘヴィメタルにおける代表的なコンセプトアルバムの傑作のひとつに数えられることになった。実際このアルバムはこうしたメインストリームにならない作風にも関わらずビルボード200で123位にチャートインするなど商業的にも一定の成功を収めている。
ちなみにこの『Abigail』アルバムセットを完全再現したライブDVDがリリースされているので、キング来日が待ちきれないメタルキッズはこれで「伝説の目撃者」となるしかないようだ。
そしてこの傑作を世に送り出したことで、キング・ダイアモンドは、オカルトやホラーをエンターテインメントとして表現するバンドコンセプト、ファルセットでゴシック調でネオクラシカルな楽曲を唄う歌唱法、一度観たら忘れられないコープスペイントのメイク、複雑でテクニカルに展開するリフワーク等々、それぞれの要素において多くのフォロワーを産み出し(Cradle of Filth , GHOST 等)、テクニカルな面でも後生のバンドに大きな影響を与える存在となった。
またラロックは、2007年のグラミー賞にノミネートされるなどヘヴィメタル界でも優れたギタリストとされる一方、最も過小評価されているギタリストのひとりとして常に名前が挙がる常連となっている。
しかしこのアルバムリリース後に、マイケル・デナーがツアーへの負担を理由に脱退。ミッキーも4作目後に脱退するなどして、キング・ダイアモンドは以降メンバーチェンジを激しく繰り返すようになる。現在はマーシフル・フェイトの再結成などもあり、このバンドはキングとラロックにサポートを加える、ユニットプロジェクトといった位置づけになっていると云えるだろう。
なおキング・ダイアモンド(マーシフル・フェイトとしても)は、来日が実現していない最後の大物メタルミュージシャンとしても知られている。その理由のひとつは彼の大がかりなステージ演出にあるのかもしれない。2013年のLoudparkで来日が予定されており国内のメタル界隈で大いに話題になったが、なんと機材到着が遅れたためその出演がキャンセルになってしまった。2023年現在、彼自身もう67歳になるので、なんとか最後に日本の地に襲来してその足跡を残していってほしい。
Origin : | Copenhagen, Denmark ![]() |
Released : | 1987. 6. 15 |
Label : | Roadrunner Records |
Producer: | King Diamond |
Studio: | Sound Track Studio(Copenhagen, Denmark) |